ブライアローズ・ディスコ

ナゾトキしながらディスコを楽しむ話

視点…イノサンス=リリ=フリチラリア


俺が"愛する人と信頼していた人に冤罪を被せられた挙げ句自殺した死体"から"植物を媒体としたアンデッドのような不安定な存在"としてこの世に甦って、1ヶ月近くが経とうとしている。

この世に甦ったなんてあんまり信じられなかったけど、まぁこうなった以上は信じるしかないよね…。

なんだかんだ俺と一緒に甦った俺と同じ元 死体、現 花のアンデッドの子達と交流するのは結構楽しいし、今が1番幸せかも なんて。

物思いに耽りながら月を眺め ハーブティーを嗜む、時計を時刻は11時を回ろうとしている。

きっと、明日も朝早いしそろそろ寝ようかな。

んー…と背伸びをすると、コンコン と俺の部屋の扉をノック音が聞こえてきた。

…こんな夜遅くに誰だろう?と、俺は席を離れて扉を開けると小さな黒い塊が俺の部屋にすごい勢いで突進してきた。 


「イノおじちゃーーん!!!こんばんはー!!!」


「ン"…!?!」


驚きのあまり、変な声が出ちゃった。

でもリブくんは部屋をノックしないだろうし、彼ではないだろうなぁって予想はしていたけど。

なんてここにはいない彼の事を考えていたら、さっきの黒い塊の声の主とは違う別の女性の声が聞こえてきた。


「こら、夜遅くに大声を出したらダメだろ。」


「うっ…ごめんなさーい…」


…この声の主の女性にも、さっき俺の部屋に突進してきた黒い塊に俺にはよく聞き覚えがあった。

もしかして、いや もしかしなくても。


「…あー、メヌエットちゃんとニュロさん…?こんな夜遅くにどうしたの…?」


まさか、俺がハーブティーを嗜んでいる間にあの子達に何かあったのかな?

と、思ったけど どうやら違うようだった。


「…今、手は空いているか?」


「え…?うん、空いているよ…?」


手が空いているか、と聞いてくるって事は何か俺に手伝ってほしいって事なんだろうけど…何だろうねぇ?しかも明日の朝 俺に会った時に言うんじゃなくて夜遅くにわざわざ俺の部屋を訪れて言ってきたって事はかなり急ぎだと思うんだけどねぇ。

なんて、ニュロさんとお話しながら考えていると俺の部屋に突進してきたと思ったら 俺のベッドでぴょんぴょん、と跳ねていたメヌエットちゃんが俺とニュロさんの元にとことこと寄ってくる。


「あのね、あのね!リーヌ君が、イノおじちゃんを呼んできてほしいって!このお話はイノおじちゃんがてきにん?だからーって言ってた!」


リーヌ君…?そんな人いたかな…?

…いや、俺たちフューネラルブーケにはいないけど確か大魔法使い様の方にそんな人がいたはず、確か…。


「リーヌ君…あー、ジャックさんの事だね…。うん、分かった…すぐ行くよ。」


ジャックさんが、俺だけに用があるなんて何かあったのかな?

まぁ、行ってみないと分からないよね。


「…ん、すまないな。」


「じゃあ、また後でねー!ばいばーい!」


「うん、バイバイ。」


ニュロさんは軽く俺に会釈し、メヌエットちゃんは俺に手を振りながら部屋を後にした。

さて、急いでジャックさんの所に向かうか。

…でも、寝間着で行くのは流石に失礼だよね…うん、着替えてからにしよう。

俺はなるべく待たせまいと、いそいそと着替えを始めた。



着替えを済ませると、俺はジャックさんの元に早足で向かった。

そこで俺を待っていたのは、コーヒーを嗜みながら大量の書類に目を通しているジャックさんの姿だった。

ジャックさんは俺の姿に気付くと、ニコニコと微笑みながら席に案内してくれ、コーヒーをもてなしてくれた。


「やぁ、百合の人間君!夜遅くにすまないね。」


「ひひ…いや、大丈夫だよ。それより…。」


俺はもてなしてくれたコーヒーを一口、口に含みながらジャックさんの背後にあるやたらパンパンに詰まっている大きなバッグやリュックサック、スーツケースをジッ、と見つめる。


「すごい大荷物だね…?何か大事な依頼が来たのかい?」


コーヒーカップを口元につける寸前でピタリと止まった彼はきょとん、とした顔で俺を見てくる。

…あれ?間違えたかな?


「いや、違うよ?」


「…え?それじゃあ、またお兄さんとニュロさんと一緒に旅行をするのかい?」


これも違うなら、俺はもうお手上げかな。

スーツケースなんて、旅行に必要な事以外あんまり考えられないんだけど…。


「それも違うね!」


違ったみたいだ。

じゃあ、何だろうか?


「ふふ、正解を教えてあげようか。実はね、僕と兄さんは一旦"君たちのサポート"から下りようと思ってね。あ!と言っても、ニュロは残るしたまにはこっちにも顔を出しに帰っては来るから安心してほしいな。」


「へー…。…え?」


考えたくなかった事が頭に一瞬過った。

でも、聞かずにはいられなかった。


「それってつまり、俺たちは元の死体に戻っちゃうって事かな?」


…フューネラルブーケは年齢も国籍も皆、バラバラ。

勿論、目的のために大人しく話を聞く人もいれば安請け合いする訳無いと反抗する人もいる。

話を聞かない都合の悪い駒はいらない、用済みって事なのかもしれない。

ヒヒ…まぁ、仕方ないかな…俺たちはロボットじゃないしね。

その時はその時で、受け入れるしかないね。

なんて、考えていると ジャックさんは何を言っているんだとばかりに話を続ける。


「まさか!そんな訳ないよ!君たちは、このままご夫婦探しの旅を継続して貰うよ?はは、面白い事を言うよね 百合の人間君って。」


…考え過ぎたみたいだ。


「…じゃあ、どういう事…かな?」


「…僕はね、君たちを甦らせるずっと前に12人の人間を作った事があってね。君たちの場合は遺骨や髪の一部と花の生命力を材料にして甦ったけど、その子達は薔薇そのものから人間になったんだ。まぁ、簡単に言えば君たちの先輩に当たる人物たちって事かな。」


「へぇ…何だか興味深いね…?薔薇が人間になるなんて、なんだかロマンチックだねぇ…。」


植物学者の観点から見ても、薔薇が人間になっただなんてとても興味深い しかも俺たちの先輩に当たるなら尚更。

縁があれば、いずれ会ったみたいものだ。


「ふふ、だろう?君たちはフューネラルブーケって名称だけど、あっちの薔薇が人間になった子達の名称は通称 ダーズンローズって言うんだ。結婚式で使う花束の事だよ。実際、例の行方不明になったフィリサティ夫婦が結婚式で使ったダーズンローズからあの子達は産まれたんだ。」


「ふむ…。」


ダーズンローズ、聞いた事は勿論ある。

結婚式のセレモニーで使われる12本のバラを束ねた花束の総称で、ダーズンローズはその中でも特別な意味を持つ花束…だったかな。

薔薇の1本1本に花言葉が込められていて 情熱・愛情・信頼・真実・幸福・尊敬・感謝・栄光・努力・希望・永遠・誠実ってついているんだよね。

最近じゃ、長く保ちたいからってプリザーブドフラワーのダーズンローズも珍しくないね。


「まぁ、そんな話はどうでも良いとして。実は、今回 僕と兄さんがサポートから一旦降りる理由とダーズンローズは関係があるんだ。」


「関係…。」


話を聞く限り、サポートを降りる理由とそのダーズンローズの関連性がさっぱりだけど…どうなんだろうか…。


「実はね、本来の依頼は"ダーズンローズにまた夫婦探しをしてきてほしい"って依頼だったんだ。でも、何故かそのダーズンローズと連絡が取れなくなってしまった。"誰一人"としてね。電話、手紙、あらゆる手段で連絡を取ろうと試みたけど全部ダメ。ダメだったんだ。いくら魔物が減った現代でも もたもたしてたら、ご夫婦の生存率は下がる一方だ。そこで、僕はダーズンローズの代わりとなる新たな人間を作る事にした。ただね、薔薇を人間にする魔導はある人間のせいで使えなくなってしまってね。だから、僕は黒魔導を利用して使い勝手の良い君たちを甦らせた。君たちは言わば、ダーズンローズの代わりとして作られた存在って事だね。」


「…そうだったんだ。」


…通りで変だとは思ったんだ…。

だって、罪を犯していなければただの一般人かつただの死者に成りかねない俺たちを使うなんてさ。

まぁ、仕方ないんだろうけどね。


「君たちを甦らせた後も、僕はその事が気がかりでね?だって変じゃないか、一人ならともかく全員と連絡が取れないなんて明らかにおかしいだろう?もしかしたら僕たちが知らない間にダーズンローズ達に何か起こったんじゃないかって…だから、僕と兄さん自らが出向く事にしたんだ。ダーズンローズ達の元にね。」


大魔法使い様の2人が魔導を使わずに、わざわざその足で出向く。

何か引っ掛かるんだろうけど、まぁそこは俺が気にする事じゃないね。


「へぇ〜…ひひ、大変そうだねぇ。」


「そうでもないよ!はは、僕と兄さんを見縊らないでほしいな!それに…。」 


「それに?」


「僕と兄さんが欠けた穴が大きそうだから、新しいサポーターを5人用意したんだ。君たちに頼みたい事は、このサポーターをここに連れてくる事なんだよ。」


…確かに。

いくらなんでもニュロさん1人じゃ荷が重いからか。

メヌエットちゃんは、サポーターと言うよりはヒント役のような立ち位置だからね。


「へぇ、新しい人が…ジャックさんって顔が広いんだね。」


「……。…まぁね!」


…?何だろうか、この間は。

まぁ、良いか。


「良いかい?この黄色の封筒に"5人の新規サポーターとの待ち合わせ場所"、ピンク色の封筒に"次にやるべき事"が書かれているから、朝起きてフューネラルブーケ達を全員集めてから今、僕が話したことを皆に聞かせてあげてくれないかい?」


特に断る理由もない、勿論快く了承して封筒を受け取った。


「なーんだ、そんな事かぁ。お安い御用だよ…ひひ。たまには帰ってきてまた一緒にハーブティーでも飲もうよ。」


「ふふ、頼もしいね!じゃあ、僕たちは明け方にはここを出るから 後の事は頼んだよ。ちゃんとフューネラルブーケ達に一語一句間違えずに伝えておくれ。…おやすみ。」


ジャックさんは笑顔でコーヒーカップを片付けると、さっさと部屋の奥に消えてしまった。

きっと、最後の旅の準備に取り掛かるんだろうな。

…それにしても……。


「ふぅ…。」


たかだか数時間話しただけなのに、俺たちの先輩の話とか新しいサポーターの話とか…濃い時間を過ごしてしまったのか何だかとっても疲れてしまった。

うーん、早く部屋に戻って寝ようかな…。

なんて、考えながら廊下を歩いていると大きな人影が見えた。

あれ、俺以外に起きている人がいたんだ?誰だろう?

そう思い、人影に近付いてみると どうやら見慣れた人物のようだった。


「おや、イノサンス君じゃないか。」


ディバインさんだ。


「あれ、ディバインさん。起きていたのかい…?」


俺の問いかけに、彼女は困ったように笑う。


「あぁ、眠れなくてね。それにしても、こんな夜更けにフラフラと出歩くなんて植物学者の君らしいね。見慣れない植物でもあったのかな?」


「いや、そうじゃなくて…ヒヒ、実はね…。」


事のついでだ。

俺は、先程ジャックさんと話していた内容を彼女に先に話した。

でも彼女は特に狼狽える様子も、驚く様子もなく、ただ淡々と俺の話を聞いてくれた。


「ほぉ、なるほど…また大変そうな感じになってきたね。」


「まぁ、それが俺たちが今やるべき事だからね…ヒヒ…。」


「それもそうだね…。」


他のフューネラルブーケ達を起こさないように、彼女と2人でコソコソと廊下で話しながら ふと廊下に飾られた古時計に目をやる。

時刻は深夜の1時を超えていた。


「はぁ、もうこんな時間だ…。早く寝ないと明日に響いてしまうな。」


苦笑いをしながら部屋に戻ろうとする彼女を、俺は慌てて引き止める。


「ディバインさん、ちょっと待って。」


俺は懐からあるものを取り出して、彼女に見せる。


「安眠効果のあるハーブティーがあるんだ…ヒヒ、一緒にどうかな…まぁ、無理にとは言わないけどさ…。」


一瞬、彼女は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になり俺の提案を快く了承してくれた。


「おや、イノサンス君…良いね!君が良ければ是非、頂こう。」


「ヒヒ…じゃあ俺の部屋に案内するよ…。」


こうして俺は、ディバインさんと月夜を眺めながらハーブティーを嗜み やがて深い眠りについていった。

次の日の朝、あの子達が大騒ぎして混乱したのは言うまでもないがやるべき事は果たさなければならない、それが今の俺達に課せられた指名だからね…。

こうして俺たちは封筒の指示に従い手分けして、新しいサポーターを迎えに行くことになったんだ…ヒヒ、どんな人たちなのか楽しみだね…。



「…うーん!良い天気だ。旅立ちには持って来いだね。兄さん?」


「えぇ♡まさかお前がいきなり"あんな事"を言うとは思いませんでしたが…まぁ面白いですし何よりお前に置いていかれる訳にはいきませんので♪」


「本当、兄さんには頭が上がらないね!流石、僕の兄さんだよ。」


「当たり前です!わたくしはお前のお兄ちゃんなんですから♡」


「そうだね!…それにしても兄さんと2人きりで旅だなんて何だか夢みたいだね。(…早くダーズンローズ達が見つかると良いね。)」


「多分、本音と建前が逆ですが可愛らしいので良しとしましょう♡」


「おや、お恥ずかしいね!まぁそれは置いといて…じゃ、行こうか。」


「はい♡」



「ここで待っていれば良いのかな?…はは!楽しみだなぁ。」


「どんな子達かなぁ、早く会ってみたいもんだねぇ。」


「…面倒事なんて、起こさなきゃ良いけど。」


「助けないと…私は、彼らを助けないといけないんです。」


「悪は如何なる理由であれ罰すべし…そうであるべきなのです。」


ブライアローズ・ディスコ前編 終


「さて、そろそろ次の封筒の指示に従おうか。」

ジャックから渡されたもう1つの封筒を開けると、そこに書かれていたのは…

"ジオンモナン 大都市メヘルヤムのコーヒーショップにある裏路地を夜9時過ぎに行き、光る看板が近くにあるバーに入る、入ってすぐの受付に"なぞときちゃんとでぃすこをしたい"と言うと特別な場所に案内されるから、そこでゲームをする。そのゲームに誰か1人でもクリアすると欲しい情報や景品が何でも手に入るからご夫婦の所在を聞く為に頑張る事。期間限定かつ早い者勝ちな為、急ぐ事。

p.s あの人間君も連れて行きたまえ、駄々を捏ねても無理にでも連れて行く事"。

指示された通り 眠いと嫌がるメヌエットを連れて指定された時間、指定された場所に行き、指定された言葉を言うといかにも、な怪しい場所に案内されたそこは、ギラギラと輝くミラーボール、踊り狂う人々、楽しそうな騒ぎ声…なんとディスコだった。

席に案内されると、全員に小さなスマートフォンと2つのQRコードが渡される。

一見すると普通のスマートフォンに"ちゅうへん"、"こうへん"と書かれただけのQRコードだが、スマートフォンの画面をタッチし、画面が明るくなったと思うと薄い紫髪の少女がこちらに向かい手を振り、あどけない声で挨拶をしてくる。


「こんにちは!わたしはなぞときちゃん!ねぇねぇ、わたしとなぞときげーむであそぼう!げーむをくりあしたら、ほしいものをなんでもすきなものをひとつあげちゃうよ!」


…子供向けのゲームだろうか?それともわざとこちらを煽っているのか?

どちらにせよ、このふざけたゲームをクリアすると、欲しい景品や情報が手に入るとの事。

今回狙うのは、夫婦の所在だ。そもそも知っているのかは定かではないがまぁやれと言われたからにはやるしかない。

さて、フューネラルブーケはこのゲームをクリアする事は出来るのでしょうか?

ゲームにひたすら熱中するのも良いですがアルコール飲料やノンアル飲料、そしておつまみ片手に仲間と相談しながら頑張ってみましょう。

つまってしまったら、ディスコで踊って頭を回転させるのもありかもしれませんね。


後編

視点…龍青 藍


ナゾトキの貴婦人と名乗る女性から渡された最後のナゾトキの答えを入力すると、パパーン、と正解であろうサウンドエフェクトがモニターから鳴る。

そして暗転したと思われた画面から、パッ とナゾトキの貴婦人が現れた。


『えぇ、えぇ!正解です!この子をひと目見た時に決めたんですよ。愛らしい名前でしょう?…おめでとう、これでゲームは完全にクリアです。』


ポポポポポ、といかにもなサウンドエフェクトとセリフでゲームクリアを祝ってくれていますが…はぁ、正直疲れてしまいました。

なぞときちゃんと呼ばれる少女がナゾトキをするゲームのはずなのに、なぞときちゃんは死んだり殺されたりの怒涛の展開が多すぎて気分もあまり良くない。

息抜きがてらグッ、と背伸びをすると突然、モニターから煙が出始めました。

故障…とは、訳が違いますよね?まさか、爆発しませんよね?これ?


「あ〜!お洋服が汚れてしまいますわ〜!藍様、どうにか出来ませんの〜!」


「今、服の心配をするどころじゃありませんよね!?!!あと、私にはどうにも出来ませんね、流石に!!!?」


いけない、こんな状況なのに思わずノアさんに突っ込みを入れてしまいました。

その間にも、モニターから出る煙は勢いを増すばかり。

もう、いっそ壊してやりましょうか!?

そう判断し、モニターを殴ろうとすると先程までモニターがあった場所には…。


「ご機嫌よう、皆様。ゲームクリア、そして完全クリア、改めておめでとうございます。」


白いドレスを身に纏った怪しい雰囲気の女性が優雅にお辞儀をしていました。

…モニターに映っていたナゾトキの貴婦人と名乗った本人、でしょう。


「わー!手品ですのー!」


…もう、突っ込みはしませんよ ノアさん。

ナゾトキの貴婦人はテーブルから下りると、私達フューネラルブーケの前にあるイスに座り直しました。

…よく考えたら、すごいところから登場しましたね この人。


「貴方達が望む物は分かっていますわ。…大方、夫婦行方不明事件の被害者の内の2人、フィリサティ夫婦の情報が欲しいのでしょう?」


…まぁ、私達が来た時点で察しがついていますよね。


「貴方達は私の出すナゾトキを、ゲームをクリアした身。教えて差し上げますわ。」


ふふ、と貴婦人は微笑むと私達にご夫婦の所在について話をはじめました。


「時にそこの青い竜胆の方、"スフマート"という者をご存知ですか?」


「わ、私ですか?スフマート…いえ、知らないです…。」


「まぁ、そうですのね。では、まずそこからお話しましょう。スフマートと言うのは、最近話題の学生遺影画家ですわ。ほら、テレビをご覧なさいな。」


貴婦人が、壁掛けテレビを指差すと 今まさにその"スフマート"と呼ばれる画家の特集を放送していました。

しかし、そこで映し出された映像は妙な違和感を感じるものだったんです。



「はい!今日は巷で話題の学生遺影画家、スフマートさんにお話を聞いていきたいと思いまーす!スフマートさん、宜しくお願いします!」


「スフマートです、皆さん 宜しくお願いします。」


「さて、スフマートさん!正直、ご自分の絵が皆様に必要とされている事についてどう思います?」


「あはは、画家と名乗って良いかも分からない卵の俺なんかが描く人物画が評価されているなんてちょっと恐縮ですね。でも、こんな俺なんかの絵が芸術の世界の発展になれるならいくらでも描きますよ。」


「おー!学生なのに謙虚で素晴らしいですね!そうなると、学業と両立させるのも大変なのでは?」


「いえ、実はつい最近通信制の学校に転校したのでわざわざ学校に通う必要がないんです。あぁ、でも交友やコミュニケーションの幅がかなり狭くなっちゃったのはちょっと残念かな。ほら、学校って先生や先輩、後輩、同級生との交流の場でもあるじゃないですか。しかも、俺って一人暮らしなのでこうやって誰かと話す機会もないので。だから、こうやって喋る場に俺を呼んでくれるのは結構嬉しかったりするんですよ。」


「なーんだ、大人っぽいなと思ってたけどやっぱり子供らしい所もあって可愛いね〜。」


「いやぁ、あっはは。」


「さて!お話の途中ですがCM入ります!CMの後は、スフマートさんの私生活を覗いていきたいと思いま〜す!」



「……。」


…この方が、今この世界で流行っている学生遺影画家?この方が?

スフマートと呼ばれた人物は、顔どころか体全体にモザイクをかけられており、音声も加工されている、かろうじて分かるのは名前、自身を俺といった事から恐らく男性という事、職業、遺影画家と呼ばれている事、この世界では引っ張りだこな存在という事だけ。

医者である私に芸術の世界を理解するのは難しいかもしれませんが、いくら何でも全身モザイクに音声加工はやりすぎなのでは?

だって、これではまるで犯罪者じゃないですか。

拭えない違和感に疑問を抱いていると、貴婦人は先程の話を再開します。


「さて、このスフマートとフィリサティ夫婦が何の関係があるのか、とお思いでしょう?フィリサティ夫婦はこのスフマートと言う画家に会いにリヴーにある山小屋に向かったようですわ。しかし、現在リヴーはあまりの極寒故に旅行客の事故死が相次いだ事から、一般人は立入禁止となっているのです。では、どうすれば入国出来るのか。大統領本人から入国許可証を貰わないと入れない状況なのです。ね、無茶苦茶な話でしょう?それほどまでに、リヴーは現在 危険な国なのです。」


「は、はぁ…。」


…スフマート、さん?の話でもうお腹いっぱいなのに、今度はこの国の大統領が私達に絡むんですか?

私達、とんでもない事件に足を突っ込んでいます?

…頭がクラクラしてきました、帰ったら即効寝たいです。


「結論から申し上げますと貴方達が向かうべき場所はスフマートのいるリヴーではなく、まず許可証を貰いに大統領府に行くのです。…これを渡しておきますわ。」


そう言うと貴婦人は私達に懐から取り出したネックストラップ付きの赤いカードを渡してきました。

…触れただけで分かります、無くしたらヤバい物だと。


「そちらは大統領府に入る為のゲストカードです、そのゲストカードを門番に見せなさい。そうすれば、大統領に会わせてくれるでしょう。」


…でも、会わないとご夫婦に会えないのですよね。

だったら、嫌でもやるしかないんですよね。


「良いですか、相手はこの国で1番偉いお方ですが話は分かる相手です。恐れずに一歩踏み出しなさい。危険な旅になるかもしれませんが、頑張りなさいな。己の罪を償う為にも、ね。」


「分かりました、ありがとうございます。」


とりあえず、情報が聞けて一安心ですかね。

…えーっと、とりあえず、です。

今は大統領に会う事は忘れさせてください、切実に。

皆が帰る準備をする中 ヒューゴさん…じゃないですね、リアムさんが貴婦人に話を持ちかけます。

…珍しいですね、いつもはヒューゴさんが表に出てくるイメージが強いんですが何かあったのでしょうか?


「…なぁ、聞きたい事があるんだけど。」


何かあったのでしょうか?

そう思っていると、彼はとんでもない事を口に出します。


「結局、あのナゾトキって、ゲームって、何だったんだ?全部、あんたの過去の話をゲームにしたのか?それだけ聞かせてくれ。」


「ちょっと、リアムさん!?!」


私はあわててリアムさんの口を抑えると、貴婦人は身動ぎ一つせずリアムさんの話に乗ります。


「まぁ、知りたがりですのね。…ふふ、あんなの作り話に決まっているじゃないですか。」


「…え?」


…作り話?あのゲームが?

だって、なぞときちゃんは過去のナゾトキの貴婦人の姿であのゲームは貴婦人の過去そのものだという話になったのでは?

つまり所詮はゲーム、所詮はフィクションと言う事ですか?


「私は、ナゾトキの貴婦人です。自らがナゾを作り、他者にナゾを解かせる私が、ナゾを生み出すのではなくナゾも何も関係ない真実を曝け出したらもうナゾトキの貴婦人とは呼べないのではなくて?」


…この人は、何を考えているのでしょうか?

まるで…理解出来ません。


「…ふーん、そう。俺が聞きたいのは、それだけ。じゃあね。」


どこか納得したリアムさんは、ディスコを後にしました。


「リアムさん!す、すいません…。」


彼に変わり、慌てて謝罪しますが貴婦人は特に困る様子もなく…。


「いえ、良いのです。もう"慣れてます"から。」


「え?」


今、慣れていると言いました?

…どういう事でしょうか。

それとも、聞き間違い?


「いえ、こちらの話です。さぁ、ここで立ち止まる訳にはいかないんでしょう?もうそろそろ店じまいですし、早くおかえりなさい。」


「は、はい…お邪魔しました…。」


モヤモヤとした気持ちを抑え、ディスコを後にすると先程リアムさんが見せた表情が気になり 思わず私はリアムさんに話しかけます。


「…あの、リアムさん…。」


「…藍か、俺に何か用?」


「さっきの話って、どういう事ですか?リアムさん、何か気付いたんですか?」


リアムさんは辺りをキョロキョロと見回し 誰もいないことを確認した後に考えるフリをすると、ちょいちょいと私を手招きします。

そして…。


「…耳、貸して。」


「…?」


言われた通り、耳を貸すと彼はとんでもない事を私に話しました。


「…!!」


驚きのあまり、開いた口が塞がりません。

でも、あり得ない話じゃない、ですね。

…でも、どうして私に教えてくれたんでしょう?


「他の人には内緒にしておいてよ。あくまで、俺の推察だからさ。」


「は、はい!あの、リアムさん!ありがとうございます!」


「ふん…。」


…リアムさん、私と同じ立場でありながら私とは似て非なる人。

ヒューゴさんは明るく楽観的な印象ですが、リアムさんはクールで硬派な印象があります。

ですが、もしかしたら単に不器用なだけなのかもしれないと思うんです。

…もっと彼…リアムさんの事を知りたいなんて言ったらわがままでしょうか?

そんな事を言ったら彼を困らせてしまうでしょうか?

…私ったら、何を考えているのやら。

何とも言えない気持ちを抱いたまま、私は1人拠点に戻った。



「…私は、ナゾトキの貴婦人です。私はナゾに包まれた存在でなければありません。誰に対しても、ね。」


「それこそが、"1人残された私"の存在意義、"たった1つの"生きる意味なのですから。」


「私が20年の時を越えても、"あの時のまま"変わらない姿なのは"彼"にそう願ったから。これは私 ナゾトキの貴婦人 いえ…レース・アルカーナに課せられた"贖罪"。…"そういう事"、なのですよ。」


「…少々、お喋りが過ぎてしまいましたわね。」


「…ふふ、それでは今宵はこの辺りで。ごきげんよう。またどこかで会いましょう。」


ブライアローズ・ディスコ 後編 終


イベント リザルト


前編 クリア者(投稿順)

・オリヴィア

・藍

・ディヴァイン

・きんぎょちゃん

・ヒューゴ/リアム

・ディラウス

・ミロ


中編 クリア者(投稿順)

・藍

・ヒューゴ/リアム

・きんぎょちゃん

・ノア

・オリヴィア

・ディヴァイン

・オリーブタイム


後編 クリア者(投稿順)

・藍

・ノア

・ヒューゴ/リアム

・オリヴィア

・ミロ

・ディヴァイン


??? クリア者(投稿順)

・オリヴィア(ノーヒントクリア)

・ディヴァイン(ノーヒントクリア)

・オリーブタイム

・藍

・ヒューゴ/リアム

………………………………

・ミロ・ブラウン

・きんぎょちゃん

・ノア・ヴェツリガ


Prologue Chapter1.5