とても幸せな物語の結末

不思議な少年に導かれる話

視点…ディラウス・カーネケイ


むかし、むかし あるところに はなのようにうつくしくかれんなしょうじょがおりました。

しょうじょは、そのうつくしさから りょうしんやむらのひとたち、みんなにあいされ すくすくとおおきくなっていきました。

そんなあるひ、しょうじょがむらのそとにあるおはなばたけで おはなをつんでいると たまたまむらのちかくのそらをとんでいたドラゴンが しょうじょにひとめぼれしてしまいました。


なんてかれんなひとだ!ぜひ、ワタシのおよめさんになってほしい!


ドラゴンは おはなをつんでいたしょうじょのからだをつかむと そのままはるかかなたへと つれさっていってしまいました。

よるになってもかえってこないしょうじょを しんぱいしたおかあさんは、むらのそとにでて しょうじょをさがしますが どこにもみあたりません。

そしてしょうじょがだいすきなおはなばたけにいってみると、ドラゴンのあしあとと しょうじょのくつがかたほうおちていました。


たいへん!むすめが!むすめがドラゴンにさらわれた!


おかあさんは、おおあわてで むらのひとたちにしらせました。

むらのひとたちは、みっかみばん いなくなったしょうじょをおもいなみだをながしなげきかなしみました。

しょうじょがいなくなってから いっしゅうかんがたったあるひ むらにぐうぜん とおいくににいるおうじさまが あいばとともにとおりかかりました。

むらがかなしくおもいくうきにつつまれていることが きになったおうじさまは むらびとたちにはなしをききました。


みなさん そんなにかなしいかおをしてどうしたんですか?


むらのひとたちは、おうじさまに しょうじょがドラゴンにさらわれたはなしをします。


なんてひどいドラゴンなんだ!わたしがたいじして、しょうじょをすくってみせましょう。


おうじさまは むらのひとたちからえがとをとりもどすべく ドラゴンたいじをすることになりました。

むらのひとたちは おおよろこび!

ドラゴンのすみか ドラゴンはしっぽがじゃくてんということをつたえると えがおでおうじさまをみおくりました。

ドラゴンのすみかは、とてもけわしくあらしがやまないたかい たかいがけのうえにありましたが おうじさまはあきらめることなく うえへ うえへとつきすすんでいきました。


やがて、がけのちょうじょうについたおうじさまをまっていたのは このすみかのあるじであり しょうじょをさらったあのドラゴンでした。 


みのほどしらずが!

しょうじょは わたさない!

しょうじょは ワタシのきさきになるのだ!


そんなことは させない!

しょうじょは わたしがかならず とりもどす!


おうじさまは ドラゴンと はげしいたたかいを くりひろげます。

しかし、ドラゴンはとてもつよく おうじさまは まけそうになってしまいます。

ドラゴンに とどめをさされそうになったとき おうじさまは むらのひとたちのあることばを おもいだしました。


ドラゴンは、しっぽがじゃくてんだよ。


おうじさまは ちからをふりしぼって、ドラゴンのしっぽにけんをつきさしました。


ぐわーっ!


ドラゴンはひめいをあげて とんでいってしまいました。

こうして、ドラゴンたいじをおえたおうじさまは すみかのおくにとらわれていた しょうじょをすくいだしました。

しょうじょのすがたをみた おうじさまは、はなのようにうつくしいすがたにひとめぼれしてしまいました。


なんてうつくしいひとなんだ!どうか、わたしのきさきになっておくれ。


しょうじょもまた、じぶんをたすけてくれたおうじさまにひとめぼれしてしまったようです。


はい!よろこんで!


こうして しょうじょはドラゴンをたいじしたおうじさまとむすばれ、むらでおうじさまとともにいつまでもしあわせにくらしましたとさ。

めでたし、めでたし。



「懐かしいなぁ。」


「…ディラ?急にどうしたの?」


「いや、ちょっと昔を思い出しただけだ。悪かったな。」


「…?なら良いんだけどさ。」


危ない、危ない。

ルジーに話しかけられなければ、俺はまだしばらく過去の思い出に浸っていた事だろう。

何を思い出していたのかって?

…昔、まだ父さんが生きていた頃 母さんに読んでもらった絵本を思い出していたんだ。

懐かしい、絵本のタイトルは思い出せないけど 小さい頃は寝る前に母さんに絵本を読んでいて貰っていたから 内容だけ覚えている。

…どうして、こんな昔の些細な出来事を思い出したかって?

所謂、"現実逃避"とかいうやつだ。

…ところで、何で今このタイミングでそんな事を思い出しているのかって?

それはだな、話は数時間前に遡る。



「…あ、ここですね。大統領府と言うのは…。入ってみましょうか。」


情報屋であるアムメリーの助力もあり ジオンモナンの大統領府にやってきた俺達は、ナゾトキの貴婦人から貰ったゲストカードを門番に見せ 大統領に直接会ってきたんだ。

赤茶色の髪をしたまるでキャリアウーマンのような大統領は、俺たち1人1人に歓迎のハグをすると部屋の中に迎え入れてくれる。

これで許可証を貰ってリヴーに行けると思った俺達は、そこで大きな誤算をする事になるんだ。

大統領は、俺達に会うなりこんな事を言うんだ。


「リヴーへ行く為の許可証の発行、ですか!?…あのーですね、リヴーは危ないんですよ。何人の旅行客がリヴーで亡くなったと思っているんですか!?第一、貴方方はジオンモナンではお見かけしない顔です。そんな人に安々と許可証を発行する訳にはいかないんですよ。ダメです!お引き取り下さい!」


…話が違う!

ナゾトキの貴婦人は、話をすれば分かるって言ってたじゃないか!

いや、落ち着け…落ち着け…話せば分かるなら、許可証を何に使うか明確に話せば良いんだ。

…よし。


「実は、だな…。」


俺は、許可証を使う経緯を洗い浚い話した。

ジオンモナンで起きている夫婦行方不明事件を解決すべく動いている事。

ナゾトキの貴婦人は 行方不明の夫婦の内の1組が何用かは不明だが、スフマートというここ最近話題の学生遺影画家に会う為にリヴーへ向かったという事。

だから、スフマートにどうしても会わなければならない事。

全て、教えられる事を話した。

大統領は顔を顰めながら聞いていたんだが、ナゾトキの貴婦人の名前を聞くや否や顔色を変える。


「うわぁ〜っ!貴方方も彼女の"ファン"なのですか!?」


…ファン?


「いやぁ、彼女!良いですよねー!クールでミステリアスで、それでいてナゾトキを作れるという頭の良さも兼ね備えていて…ハッ。」


……。


「あぁ、失礼しました。そうですか、彼女からゲストカードを貰ったんですね。はいはい、それならそうと早く言って下さいな。」


言う前に追い出そうとしたのはどこの誰なんだか…。

まぁ、良い。

これで許可証が貰えるはず、だと思った俺が甘かった。


「しかし、いくら彼女の知り合いだからって本当に許可証を発行していいんでしょうかねぇ…。だって、むやみやたらに発行してあなた達の誰かが死ぬ事になったら、私が責任を問われる訳なんですし…うーん…。」


…自分たちが、フューネラルブーケという一種のアンデッドのような存在なのは隠しておこう。

これは話してはいけない気がするからな、自分たちは死なないから大丈夫、と話しても冗談も大概にしないといけませんよ〜、と笑い飛ばされるかお化け呼ばわりされてここを追い出されるオチだ。

そうこう考えている内に、大統領はある決断を下す。


「そうだ!なら、こうしましょう!私が出す"2つの依頼"を見事に達成したら許可証を発行する、と言うのはどうでしょう!ここ最近、私の周りで困った出来事があったり、ちょっと危ないお話が大統領府の耳に入ってきているんです。それを解决したら、許可証の発行手続きを行います。どうでしょう?」


…依頼遂行中に、更に依頼を重ねるときた。

まぁ、よく考えても俺達は周りから見ればただの旅する一般人達だ。

夢で出会ったダーズンローズのように、戦闘能力に長けている者もいればそうでない者も勿論いる。

それに、聞いた話によればここ最近はこの辺りの魔物は劇的に減少しているそうじゃないか。

だから魔物を倒してこい、だの薬草を組み合わせて怪しい薬を錬金してみよう、などいかにもファンタジーな依頼ではないはず。

…まぁ、減るものではないし受けてみよう。

じゃないと、話が進まないのもあるからな。


「分かった、依頼を受けよう。」


「あぁ、ありがとう!ありがとう!助かります〜!」


…一国の大統領が、こんな人で良いのか?

皆、見た目に騙されているのか?

まぁ、良いか。俺には関係ない。


「さて、1つ目の依頼を聞かせて貰おう。」


「はいはい、少々お待ち下さいね。えっと、確かここに〜…あー!ありました、ありました!こちらです。」


大統領は、部屋の中にある本棚から古びた本を取り出した。


「これ、私の祖母が遺した"書きかけの小説"なんです。」


…ここからは、話が長くなるので俺が手短に纏めよう。

昔 まだ大統領が生まれる前の話。

大統領の祖母もまたこの国を担う大統領だったらしい。

そんな祖母は仕事の合間に趣味として、密かに小説を書いていたそうだ。

私はこの小説を書き切るまで死ねない!と豪語していたらしい。

しかし この小説は結末が書かれる事はなく しばらくして祖母は流行り病でポックリと亡くなってしまった。

身内は他にいなかった為、遺産や遺品は夫である祖父、実の息子である父親、義理の娘である母親の3人に山分けされたんだとさ。

この書きかけの小説も、遺品として本が好きだった母親の手に渡り やがて母親も皮肉な事に、祖母と同じ流行病で亡くなった。

母親の部屋を整理していた時、祖母の書きかけの小説を見つけた大統領は、しばらく家に保管して後でどこかの団体に寄付しようと最初は思ったらしい。

だがある日、家にあるはずの書きかけの小説がこの部屋に何故かあったらしい。

最初は疲れているのかと思って元あった場所に戻したらしいんだが、本は何度も何度もこの部屋に戻ってくるらしい。

普通なら怪奇現象と言わざるを得ないが大統領はこれを、祖母が大統領へ書きかけの小説を完成させて欲しいというあの世からのメッセージなのかと思ったそうだ。…なんて、ポジティブなんだ。

なら自分がこの物語の結末を書こうと思ったらしいが如何せん物語を書くのは初めて故に何を書けば良いのか分からず今日に至る。

なので、自分の代わりに物語の続きを完成させて祖父を安心させて欲しい。


…と、言うのが1つ目の依頼らしい。

しかし、小説なんて俺も書いたことがないからどうすれば良いのか分からない。

どうしたものやら、なんて考えていると俺の相棒…ルジーが小説を手に取り読み始める。

そういえばルジーは、読書好きなんだよな。

ルジーと、他の読書な好きな人たちを集めればいけるのでは?なんて考えたが、やっぱり現実はそう甘くないようで。


「…どうだ?いけるか?」


「…これはね、かなり酷い。」


「は?」


どういう事だ?


「まずね、主人公は絵を描くのが好きな男の子らしいんだ。でも、主人公が何をしたいのか、読み手である僕たちに伝えたいのか、何を語りかけたいのか、全然分からないんだよ。主人公の言っている事は支離滅裂だし、名前もわからない知らない人がいきなりたくさん出てくる、何なら至る所がシミだらけで所々文字が読めない。…これは間違いなく苦労するよ。」


「…マジで?もしかして詰んでるのな?」


「マジ、もしかしなくても詰んでいる。」


…これ、もしかしてとんでもない依頼を掴まされたのか?

いつになったら終わる?終われる?

そんな事してる間に行方不明者の数が膨らむんじゃないのか、これ?

今からでも遅くない、別の依頼に…。


『…こっち。』


…え?


『こっち、来て。』


『こっち、こっち。』


「…誰だ?お前か?」


「いや、僕じゃないよ?」


「…じゃあ、本当に誰なんだ?」


幻聴か?そう思い気にせず小説を読むルジーを見ているといきなり視界がグニャリ、と歪む。

…立ちくらみだ、何だ、何が起きている?

周りを見ると他も同様に、皆 苦しそうに頭を抱えたり床に蹲ってのたうち回っている。

唯一無事の様子の大統領とニュロ、メヌエットは藻掻く俺達を見て助けを呼ぶべく大慌てで部屋を飛び出したり、俺達を介抱しようとしていた。


「な…に…が…起き…て…?」


『こっち、こっちだよ。』


「…お前は…誰…だ…?」


『…ボクは……。』


ダメだ、もう限界だ。

俺自身が出した問いの答えを聞く事はなく、俺は完全に気を失ってしまった。



次に目が覚めたら、どこまでも広がる青い空の下、広がる潮風の香り、海が綺麗な町に俺達フューネラルブーケとフューネラルリースが放り出されていた。

…ルジー曰く、小説の舞台の1つに港町があったらしい。

そして、ニュロとメヌエットは見当たらない。

そういえば、あの時 ニュロとメヌエットは大統領と同じで立ちくらみが起きなかったようだった。

つまり、ニュロとメヌエットは…?どういう事だ?

事態を整理していると、後ろから少年のような声が聞こえてきた。

振り返ると 13歳、14歳くらいの画家のような格好の少年が手を振って挨拶をしてきた。


『わぁ、やっぱり来てくれたんだね!初めまして!…ここに呼ばれた意味、もう分かっているよね?』


よく聞いてみると気を失う前に聞いた声と同じ声の少年。

そして、ルジー曰く小説の主人公は14歳の画家を目指す少年。

その小説の舞台である港町に今、まさに放り出されている。

立ちくらみが起きなかったニュロとメヌエットはここにいない。

…この状況から察するに、つまり俺達はこの小説の主人公である男の子の導きによって小説の中に閉じ込められたと言う訳だ。

そして少年は、恐らくだが物語の結末を書き終えるまで俺達を出さないつもりらしい。

…小説の中の時間軸と現実の時間軸が一緒なのか、など考える猶予も与えてくれず、少年は俺達を引っ張り物語を完成させるべく急ぎ足でどこかへ向かっていく。


『へへ、一緒に頑張ろうね!みんな!手を抜いちゃダメだからね!』


…この前、夢の中に閉じ込められたと思ったら今度は小説の中に閉じ込められるんだ。

これで自暴自棄をするな、現実逃避をするなと言われても無理がある。

少しで良いからさせてほしい、頼むから。

…そういえば、小説といえば 昔、小説ではないけど…。



そして、今に至る。

ルジーに現実に戻された後、俺は少年の行動に振り回されながら物語を結末に導くべく少年に振り回されながら動いている訳だ。

少年は幼い故に、やれ爆発オチで結末が良い!だのやれヒーローになって世界を救うという俺たちはこれからだ!なんて消化不良の結末が良い!と言い俺たちがその通りの結末を迎えさせても、どうも納得行かず 物語は未だ中途半端のまま 白紙だ。

…とりあえず早く終わらないかなぁ、トホホ。

まぁ、少年の望む結末にしないと出られないから仕方ないか。

…はぁ、現実が恋しいなぁ。


視点…ルジアス・ヴィラル


『あ、あ、あぁ……あ…ァ……ア…?!』


少年が苦しそうに頭を抱え始める。

どうやら、少年は本来描かれるはずだったであろうこの物語の結末を思い出した。

そして、同時に忘れたかった"真実"をも思い出してしまった。

自分が"何者"なのかを、自分が"誰をモデルにしているのか"を。

どうして"この物語は描かれたのか"を。


『…そうだ、私、俺、アタシ、ぼ、ボク、ぼ、ボ…ぼ…!』


少年はまるで壊れる寸前の機械人形のように、不自然な言動や挙動をし始める。

見ていられなくなった僕は、思わず駆け寄り少年を抱き締めた。

少年は びくり、と体を強張らせ 逃げようとするが僕が抱き締める腕を緩める事は勿論ない。

…僕は少年を抱き締めながら、ゆっくりと彼に話しかける。


「…大丈夫です、落ち着いて下さい…。ゆっくり、深呼吸しましょう。吸って…吐いて…そうそう…もう1回…。」


少年は僕の言う通りにゆっくり、ゆっくりと深呼吸をする。

自分を落ち着かせるように 何度も、何度も。

やがて少年は落ち着きを取り戻したのか、僕の側を離れた。

…表情は依然、暗いけど思い出した事を聞かない訳にはいかない訳で。


「…落ち着きました?…あの、少しずつで良いので良ければ話してくれませんか?…君は、何を思い出したんですか?」


…少年は ぽつぽつ、と語りだす。

喉の奥から絞り出すような、か細い声で。


『…ボクは…ボクのモデルは"筆者の元婚約者"なんです…。』


…話が長くなるので、ここからは僕が順を追って皆さんにお話しましょう。

少年は、少年のモデルになった人物は筆者の"元"婚約者だそうです。

婚約者と言っても、正式に婚約をした訳でもなく契約書を書いた訳でもない 口先だけの約束。

でも、筆者と婚約者は夢見ていました。

愛する人と結ばれ、いつまでも幸せに暮らす結婚生活を。

しかし、現実は甘くありませんでした。

…皆さんもご存知の通り、筆者はその昔 この国の大統領を務めていた人です。

そんな偉い人と一般人が結ばれるのを、筆者の両親は許しませんでした。

筆者は婚約者と引き離されるような形で、親に決められた結婚相手と結婚する事になりました。

筆者には婚約者はお前を捨てて遠い所に言ったと酷い嘘をついて。

婚約者には、筆者に二度と近寄るなと酷い捨て台詞を吐かれて。

愛する人を引き裂かれ錯乱した婚約者は、現実が受け入れられず発狂し やがて自ら命を絶ってしまいました。

婚約者が自ら命を落とし、両親が今日まで自分に嘘を付き続け、婚約者に酷い事を言って自分との繋がりを絶たせ実質婚約者の命を奪った存在だと知るのは、筆者の親が亡くなる直前だったそうです。

しかし、もうその頃には筆者の女性大統領としての地位は確かな物となっており、部下や国民などの守るべき物、そして何より大切な我が子がいたので婚約者の後を追う勇気も気力もなかったそうです。

自分がかつての婚約者の為に後追い自殺をしたら、世間が如何に混乱し残された家族にどれほどの迷惑をかけるのか筆者は分かっていたからです。

だから筆者は、少年と幼少期の自分をせめて物語の中だけでも結ばれたいと小説を書き始めましたが、 結末を描く前に流行病に罹り亡くなってしまいました。

そして、何年 何十年の時が過ぎ 今に至る。

…これが、少年が思い出した全ての真実だそうです。


少年は苦虫を噛み潰したような複雑な表情で、僕に語りかける。


『…はは、笑わせないでほしいですよ…本当に。ボクが筆者と結ばれたら、筆者の旦那さんが可哀想じゃないですか。彼は何も知らないはずなのに。自分勝手も大概にしてほしいですよ、本当。人の事を何だと思っているんでしょうね。…現実から目を逸らし続けていたらいつの間にかこんな大事な事を忘れて。…クソ、クソ…!!』


…どうしよう。

少年が全てを思い出した以上 本来筆者が描くはずだった結末を迎えてもきっと少年は納得しない 納得出来ないだろう。

しかし、僕達はいつまでもここにいるわけにはいかない。

でも、ここから出るには物語の結末を迎えないと出られない。

このままここで過ごすか、少年を説得して結末を迎えるか。

どうしよう、どうすれば良いんだろう。

なんて、考えていると後ろから誰かの声が聞こえた。


「…だったら、筆者が望まない結末を自分達が作れば良いだけです。仮に筆者が化けて出たら、追い返せば良いだけの話。簡単でしょう。」


…ルーキスさんだ。


『え…?』


少年は驚いた顔をする。


「つまり、アンタは筆者に縛られずに"幸せな物語の結末を迎える事が出来ます"よ。…タブリス、いける?」


「え、どうしたの急に…?」


ルーキスさんは、ヒソヒソとタブリスさんに耳打ちする。

…何を話しているんだろう?


「…あー、なるほどね。了解。」


ルーキスさんから何かを聞いたタブリスさんは了承した後にこちらに向き直し、僕達に話しかけてきた。


「ちょっと良いかい?君たちの中に、読書が好きだよ〜って子とか、本が好きだよ〜って子がいたらこっちに来てほしいんだけど…大丈夫かな?」


…タブリスさんの指示に従い 僕を含めた本や読書が好きなフューネラルブーケとフューネラルリースを集め 集まった人たちでコソコソと話を始める。

その内容に最初は勿論驚いたけど、少年を納得させるにはこれしか方法が残っていない為 協力して"物語を執筆"していく。

そうだ、用意された結末に納得いかないなら自分達が作ってしまえば良いだけの話。

この物語の主人公は彼だ、筆者がいなくなった以上 この物語をどう終わらせるのかは彼の自由。

筋書き通りの結末を迎えるのではなく、違う結末を歩んでも彼の自由だ。

…きっと彼は自覚していないだろうけど、少年は結末を迎えるだけじゃなく、違う結末を歩みたくて僕たちを呼んだのかもしれない。

まぁ、あくまでも推測に過ぎないけど。

そして、物語の結末を無事に描き終え 少年にこんな結末が起こるよ、と伝えると 少年はとても満足したような、安堵したような、幸せそうな笑みを浮かべていた。


『…ありがとう、これで思い残す事はありません。…本当に、ありがとうございました。』


…終わった、これで依頼完了だ。

ようやく元の世界に帰れるんだね、はぁ…長かったなぁ。

こうして、役目を終えた僕たちは少年に別れを告げ 現実の世界へと帰っていった。



大統領府に戻ってきた後、僕たちは急いで大統領に完成した小説を渡す。

いきなり倒れた僕たちが、今度はいきなり目が覚めるものだから大統領はかなり驚いていたけど僕たちの気迫に圧倒されたのか慌てて小説を受け取り、読み始める。

年代のせいでシミこそは仕方ないが 支離滅裂だった文章や登場人物などきっちりと訂正されており、少年が読者に伝えたい事、少年の大胆な行動…欠けていたピースが全て埋まった小説はページを捲る度に大統領をどんどん夢中に、虜にしていく。

あっという間に大統領は小説を読み進めていき やがて、物語はエピローグ…結末に辿り着く。


「こうして、少年は少女の幸せを願い身を引いた後、大好きな絵を描き続けながらのんびり平和に暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。…ほうほう、なるほどなるほど…。」


小説を読み終えると、大統領は僕たちに拍手を送る。


「素晴らしいですね!ハッピーエンドじゃないですか!きっと、祖母も天国で喜んでいると思います!本当に、本当にありがとうございました!」


「はい…。」


「…?皆さん、どうしたんですか?そんなに暗い顔して?」


「…いえ、何でもありません。」


…言えない、言えるわけがない。

小説を本来の結末とは違う結末にしたなんて、口が裂けても言えない。

…この事は、大統領には絶対言わないでおこう。

僕たちだけが知る"秘密"だ。


「さて、今日はもう遅いですし何よりお疲れでしょうから 次の依頼はまた明日の朝にでもお話しますね!それでは、今日は解散!お疲れ様でした!」


…こうして、僕たちは大統領府を後にした。

小説の中に入っていて気が付かなかったけど、外はすっかり夜になっており冷たい風が僕の肌に当たる。

どうやら小説の時間軸はとても遅かったようで、小説の中では1週間から2週間の時間が流れていたけど、現実の時間軸では数時間程度の出来事だったようだ。

…今夜は寒い、早く帰ってお風呂で暖まってから寝よう。

僕は足早に拠点に向かおうとするが、ふと"あの事"が気になってしまい 居ても立っても居られなくなり 思わずディラに話しかける。


「ねぇ、ディラ。」


「ん?どうした?」


「…これで良かったのかな。…何だか、筆者に申し訳ない気もして。まぁ、今更なんだけども。」


「…良かったと思うしかないだろう。あのまま少年が望まない結末を迎えて、少年が悲しむのは筆者も本望じゃないはずだ。筆者もそこまで鬼畜じゃないと信じる他あるまい。…そう、思うしかない。」


「…そうだね、そうだよね。…うん、きっと君が言うならそうなんだ。」


…物語は"筆者が望むハッピーエンドだけとは限らない"。

現実がそうであるように、残酷だがこれは紛れもない事実。

数多に煌めく星空を眺めながら、僕は少年と"あの出来事"を思い出していた。

あの日あの時、自分が命を落とす事となった"あの出来事"を。



「…ニュロちゃん……。」


「メヌ?…どうした?」


「…あのね、メヌ…ちょっと戻ったかもしれなくて。記憶。」


「…話せるか?無理ならまた今度でも良いぞ。」


「大丈夫。…あのね…パパとママね、リヴーに行っちゃう前にね、"色んな所に行って色んな人達に頭下げたり、色んな書類書いたり"してたの…。でもね、それはメヌの為じゃなくて…。あ、でも借金取りとかでもなくて、その…えっと…。」


「…その人達は、メヌの知り合いだったりする?」


「…そこまでは思い出せなくて…ごめんなさい…。」


「…そうか。思い出したのはそれだけか?」


「うん…。」


「…分かった、また何か思い出したら話してくれよ。」


「…ん。」


「ところで、メヌ。眠れていないのか?目の下に隈が出来ているぞ。」


「…んん!ちゃんと眠れてるよ!ちょっと夜更かししちゃっただけだから大丈夫なの…。心配してくれてありがとう、ニュロちゃん…。」


「…?」



「はぁ、これだけ探したのに誰一人見つからないね。兄さん。」


「そうですねぇ♡一体何処に行ってしまったのでしょうね?♡」


「本当にね。…ん?」


「ジャック?どうかしました?」


「…何だろう、これ?ミニキャンバス?誰かの落とし物かな?2つのミニキャンバスに橙薔薇と紫薔薇が描かれている。」


「あら〜♡まるで"あの2人"みたいですねぇ♡まぁ、恐らく人間が描いた物なのでわたくしにとってはどうでも良い物ですが♪」


「そうだね、兄さん。…ん?」


「ジャック?」


「…薔薇の種類、花弁の枚数、形、それに橙薔薇に至っては枯れている場所が一致している。もしかして、いや、まさか…。」


「??」


「…兄さん、ちょっと行きたい場所があるんだけど大丈夫?」


「はい、勿論♡わたくしは、どこまでもお前に着いていきますよ♡」


「…ふふ、ありがとう兄さん。それじゃあ、行こうか。」


「えぇ、喜んで♡」


とても幸せな物語の結末 終


Chapter1.5 Chapter3