聖アンドレエヴ学園ナナフシギ事件

深夜の学園を調査する話

視点…ミロ・ブラウン


皆さんは、学園の七不思議をご存知ですか?

…僕は学校に通った事がないので詳しい事は分からないんですが、学園もとい学校の七不思議とは、学校にまつわる怪談話を7つ集めた物を指すみたいです。

音楽室で目が光るベートーヴェンの肖像画とか、理科室の動く骨格標本とかが代表例ですね。

学校によっては七不思議とは限らず、8つ以上の怪談話があったりするみたいです。

…どうして、こんな話をするのか。と思いましたか?

それはですね、この学校の七不思議というものが次の依頼に絡むからなんです。

これは、とある学園の七不思議にまつわる事件のお話です。



場所は変わって、ここはジオンモナン大統領府にある執務室です。

つい先日まで僕達は1つ目の依頼を遂行している途中で、とある少年に誘われ大統領のお祖母さんの遺品の書きかけの小説の中の世界にいたのですが、依頼を達成してこの世界に帰ってきてから長期旅行から帰ってきたかのようなドッ、とした疲れが体に残ってしまっていますが、リヴーに行くには大統領から許可証を貰わないといけないので皆さんの足を引っ張らないように頑張らないといけません。

ソファでくつろぎながら大統領の側近さんがお出しした紅茶を嗜みつつ、僕は大統領のお話を聞きます。


「さて!次の依頼はですね、聖アンドレエヴ学園のナナフシギ事件を解決して貰います!」


「聖アンドレエヴ学園…?」


この辺りにある学校でしょうか?

僕はこの国の出身でもないのでよく分かりません。


「あ!メヌの通っている学校だよ!そこ!」


…詳しく話を聞いてみる必要があるようですね。

でも、最近彼女は学校を卒業したと聞いていたのですが気の所為でしょうか?


「んとね、メヌは今まで初等部に通っていたんだけど今度から中等部になるの!メヌの学校は初等部、中等部、高等部があるんだよ!」


あ、なるほど。

一括りに学校と言っても、別々に小中高と学校があれば小中高の一貫校があったり色々と種類があるんですね。

勉強になりました。


「…メヌの学校って事は、もしかして…"あの事件"の事?」


"あの事件"?


「あれ、貴女!あそこの学園の生徒だったんですね!?なら話が早いです。そうです、貴女の推測通り"あの事件"ですよ。」


…生徒の間で噂になるほどの事件って、かなり大きい事件と言う事なのでしょうか?

そんな事件、警察や探偵に任せず僕達で解決してしまっても良いのでしょうか?

色々と考えていると、大統領は僕達にも分かるようにこの依頼の経緯について説明してくれました。


「実は…聖アンドレエヴ学園ではここ最近奇妙な出来事が起きているんですよ。例えば、教室の黒板に大きく"I'm the culprit.(犯人は私です)"と書いていたり、家庭科室で調理実習で使う予定の材料を冷蔵庫にしまっていたら次の日には全て食い尽くされてしまっていたり、誰もいないはずの音楽室で夜な夜なピアノやトランペット等の楽器の音が聴こえてきたり…あげるとキリがないのですが、このようにおかしな怪奇現象があの学園では起きているんです。」


…音楽室の話は怪奇現象と言っていいかもしれませんが、教室や家庭科室の話についてはもはや泥棒…侵入者の仕業なのでは?

しかし、学園側から泥棒を易易と招き入れるようなそんな初歩的なミスをするとは考えにくいです。

きっと、侵入者防止策としてセキュリティもちゃんとしているでしょう。

それに、あの彼女が通っている学校からしてお金にはあまり困ってなさそうですしセキュリティ面を甘く見る、なんて事もなさそうです。


「本来であれば、教師陣が交代で見張りをしながら犯人を突き止めるか警察や探偵に相談すればいい話なのですが…今は新入生の迎え入れや入学式の準備でそれどころではないようですし、それに教師陣は疎か学園長すら頑なに学園の評判が下がるのを恐れて警察や探偵に相談するのは嫌がっているのです。呆れた話ですよね〜、本当。」


…そうか、もうそんな季節なんですね。

秋に始まったこの旅も、季節が移り変わってもうすぐ春になります。

なんだかんだ、もう5ヶ月も旅を共にしているなんて時間が過ぎるのは早いものです。

それにしても、学園も大変ですね…こんな時期にこんな騒ぎが起きてしまうなんて。

先生や学園長達でこの騒ぎならそこに通う生徒さんは、きっと、もっと…。


「生徒達は"怪奇現象の起きた場所は全て七不思議に関係している、長い時間が経ったせいで忘れ去られた学園の七不思議が引き起こしたナナフシギ事件"だ、とか何とか訳が分からない事を言って怖がっていますし…七不思議なんてあるわけないでしょうに!不思議なんて、ナゾトキの貴婦人様が出すナゾトキだけで十分ですのに!」


…ですよね。

大人でどうにも出来ないなら、どうしてもそうなりますよね。

…最後のは、聞かなかった事にしておきましょう。


「そこで、貴方達の出番です。貴方達には"聖アンドレエヴ学園で起きた怪奇現象の犯人を突き止める"のが貴方達に課す2つ目の依頼です!…あ!学園には既に私から話を付けています!深夜に入れるようにと学園のオートロックのパスワードを教えて貰っています。はい、こちらがパスワードをメモした物です。…これが終わればリヴーの許可証はすぐそこです!頑張ってくださいね!」


…中々どうして、この依頼も一筋縄ではいかないようですね。

でも、この依頼が終われば僕達は晴れて許可証が貰えるので気を引き締めて頑張らないといけません。

僕なりに、一生懸命頑張りたいと思います。



と、言う訳で僕達は深夜の聖アンドレエヴ学園の調査をしにやって来ました。

まだここは玄関口ですが、僕達以外には誰もいない学園ってちょっと悪い事をしているみたいでドキドキする反面何かが出てきそうで少し怖いですね。

いや、調査の為に来ているので悪い事ではないんです。

ちゃんと許可を貰っているので、これは決して悪い事ではないです、きっと。

なんて、頭の中で1人自問自答していると深夜に相応しくない賑やかな声が後ろから聞こえてきました。

…この声はオリーブタイムさんと、レオンさんですね。


「深夜の学園って楽しそうだよねー、レオも楽しみだよねー?」


「分かりみー、ちょー楽しみー。リーブ、俺と一緒に行動しちゃう?」


「たはー、どうしよーかなー。」


何だか、このお二人はホラーやそういう類のものは寧ろ予測不可能の楽しい物として受け止めていそうですね。

更にその後ろで、きんぎょちゃんがお二人のやり取りを見ています。


「う〜、レオンくんと一緒に行動したい、したいけどレオンくんはオリーブくんと一緒に行動したいんだろうなぁ…けど…ぼくもレオンくんと一緒に行動したい…うー…。」


…非常に話しかけにくいのですが、少しでも気を紛らわせたいのでちょっと話しかけてみましょうか。

きんぎょちゃんの名前を呼ぶと一瞬びくっ、と体が跳ねましたがすぐ僕の方に体を向けて僕の話を聞いてくれました。


「…きんぎょちゃんは、怖くないんですか?その…お化け、とか。」


「はぁ!?お化けなんている訳ねぇ〜だろ!それに、仮に出てきたらぼくがぶっ飛ばしてやるから安心しろって〜!」


「…ありがとうございます、頼もしいですね。」


「へへっ、何かあったらすぐぼくに言えよ!」


「はい、勿論です。」


…きんぎょちゃんとお話していたら、何となくですが気が紛れてきました。

この調子ならきっと、依頼もすぐ完了出来るかもしれません…多分、ですけれど。


「それじゃあ、中に入るよ〜。皆、ちゃんと付いてきてねぇ〜。」


そんなこんなで、僕達は代葩さんを先導に深夜の学園へと足を踏み入れました。

予め学園には全ての教室に電気を点けて退勤するよう、頼んでおいたみたいで深夜にも関わらず学園は明るい光に満ちていました。

これなら簡単に調査出来そうですね。

しかし、そこで思わぬトラブルに見舞われてしまいます。


バチッ!


「えっ?」


…これは、停電ですね。

どうしましょう、停電の時はどうすれば良いんでしょうか?

とりあえず、動かない方が良いですよね。

この広い学園内で、皆さんとはぐれてしまったら…と、考えるとちょっと…すいません、やっぱり考えたくありません。

ここは大人しく電気が点くまで、待ちましょう。


…どれくらい時間が経過したのでしょうか?5分?10分?

停電した途端、仲間達の声が近くで聞こえていたのですが、今は誰の声も、何なら呼吸音ですら聞こえなくなってしまいました。

あと、どれくらいで復旧するのでしょうか?早く皆さんの顔を見て安心したいです…。

と、真っ暗闇の中 色々と考えていると、ついに…。


パチッ!


ようやく、電気が復旧したみたいです。

みたい、なんですが…。


「あれ…?」


ついさっきまでそこにいたはずの仲間達の姿はなく、僕一人が玄関口に残されていました。


「代葩さん…?皆さん…?いたら返事をして下さい…。」


……。


名前を呼んでみても、僕の声が玄関口で響くだけで。

ど、どうしましょう…皆さん、どこに行ってしまったんでしょう?

僕だけが玄関口に取り残されるなんて、あの時誰かの近くにいれば良かったと後悔してももう遅いですね。

…それにしても、ここは動かずに大人しく仲間達の帰りをここで待つべきでしょうか?

でも、朝まで仲間達が帰ってこなかったらどうしましょう?大統領に、大魔法使い様達に何て説明すれば良いんでしょうか?

…もしかしても、僕、今…かなりピンチですね…?!ど、どうしましょう、どうしましょう…!!

僕1人ではどうしようも出来ない状況に混乱してしまい、わたわたと慌てていると何かにぶつかってしまいました。


「す、すいません…って、あれ?」


慌てるあまり下駄箱か傘立てにぶつかったのかと思ったら、どうやら違ったようです。

この赤茶色の短い髪、赤い瞳、仄かに香るベゴニアの花、この人は…。


「ど、ドロテア…さん?」


そう、ドロテアさんがきょとん、とした顔で玄関口に立っていました。


「おや?ちょっと用足ししてから合流すると言ったんだが…まだ皆、集まっていないのかい?」


キョロキョロ、と辺りを見渡すドロテアさん。

そうか、あの場にいなかった彼女は知らないんですよね。

先程、何が起こったのかを。


「あ、ドロテアさん…じ、実は…。」


僕は先程起こった出来事をドロテアさんにお話しました。

学園内に足を踏み入れた途端 突然、学園内で停電が10分起きた事。

停電が復旧したら、自分以外の仲間達がいなくなっていた事。

全部、お話しました。


「あー!そうなのか!いやぁ、災難だったねぇ!はは!まぁ、きっと学園内に散らばっているだろうから安心しな。私の勘がそう言ってるよ。」


…ドロテアさんといると、先程までの不安が一気に無くなったような気がします。


「さて、ミロ!ここからは私と一緒に行動しよう。一緒に行動して仲間と合流した方が効率が良いからな!…無理にとは言わないけどね、どうする?」


「わ、分かりました…。宜しくお願いします…。」


仲間が1人見つかる…正確には合流する、ですがそれだけでもこんなに安心出来るんですね。

一時はどうなるかと思いましたが、良かったです。


「よし、まずは近くの学園長室から行ってみよう!さぁ、行くぞ!」


話が終わるや否やドロテアさんは物怖じせず、ズンズンと学園内を進んでいきます。

…あれ、もしかしてまた置いていかれるとかありませんよね…!?


「ま、待ってくださぁい……!」


もう、もう置いていかれるのは懲り懲りです…!


『…早く追い出さねば。』


息を潜めながら、学園長室に入る。

…特に変わった所はないようだ。

ホッ、と胸を撫で下ろし戻ろうとすると…。


…あれ、今学園長室に飾られている歴代学園長の顔写真の一部が光った気がする…?


 きっと気の所為だから、ここを出よう!

▶少し調べてみようかな?


歴代学園長の顔写真を調べてみる事にした。

…あれ、よく見ると写真の目の部分がくり抜かれてカメラのような物が見えているような…?


写真立てを外してみると、裏には小型カメラが仕込まれていた。

これは証拠になりそうだな、外そうとすると学園長室の扉からガタガタと音がなる。

…ん?誰だろう?


…仲間達の誰かかな?

開けてみる?


▶開ける

 開けない


そっ、と開けてみる。

ドゴッ!!

…あれ、なんで…?

薄れゆく意識の中、見えたのは黒いコートだった。


…ここは……?

目を開けると、周りには無数の楽器。

ここは音楽室だろう。


…何だか、肖像画がこっちを見ている気が…そう思い立ち上がると、突然誰も奏でていないのにピアノの音が聞こえてきた。


▶調べてみようかな?

 怖い、逃げよう!


ピアノを調べてみる事にした。

よく見ると、小型スピーカーがありそこからピアノの音が流れているようだ。


これも証拠になるかな。

スピーカーを外そうとすると、またも音楽室の扉から人気を感じる。

…とりあえず、今度は窓から出る。

もう、殴られるのはごめんだ。


さて、どこに行こう?


 家庭科室

 理科室

▶美術室

 保健室


美術室へやってきた。

入ってみると、とくに変わった様子はないが…ん?何か踏んだ?

足に視線をやると、どうやら絵の具を踏んでしまったようだ。


あー、これは洗い落とすのに時間がかかりそうだなぁ。

美術室にある流し台で靴を洗っていると、やはり視線を感じてしまう。


…振り返る?


▶振り返る

 気の所為、気の所為


振り返ってみる。

…しかし、誰もいなかった。

本当に気の所為?…いや、これは…。


作業台の1つに視線を移し、辺りを見ていると"ソレ"とぱっちりと目があった。

"ソレ"は びくっ、と震えると慌てて逃げ出す。


あ、逃げた!追い掛けよう!


 全速力で追い掛ける

 静かに追い掛ける

▶廊下を走るのはちょっと…


しかし、廊下を走ると危ないのでゆっくり追い掛ける事にした。

コツ、コツ…誰もいない廊下に靴の音がこだまする。


足音を頼りについたのは初等部の教室だった。

黒板には例の文字が書いてある。


…消す?


 消す

▶消さない


消さない事にした。

このまま次の所へ行こう。


 家庭科室

 理科室

 保健室

▶図書室


図書室へやってきた。

そこでは、なんと一部の仲間たちがいた。

どうやらちょうど図書室を探索中だったらしい。


合流し、一緒に調査する事にした。

とりあえず本棚やテーブル、椅子を片っ端から調べたが特に何もなかった。


ここは特に大丈夫そうだ。

じゃあ、次は…?


▶保健室

 理科室

 家庭科室


保健室にやってきた。

探索していると、ベッドの下から腕か出てきて自分の足を掴んで離さない。


▶振り解く

 放置する


無我夢中で振り解き、保健室から逃げ出した。

必死に逃げてしまったので、仲間達はまた散り散りになってしまった。


必死になって逃げた場所は理科室だった。

ここまで逃げれば追いかけてこないはず…?あれ、今骨格標本が動いた


▶調べてみる

 無視して次に行こう


骨格標本を調べると、やはり本物の人で。

今度こそ、捕まえた!…ん?振り返るとすっかり大人数の人間に囲まれてしまっていた


あれ?よく見たら…?

…そうか、つまりこの事件は…?

いや、その前に逃げないと!


視点…ノア・ヴェツリガ


「もう〜!貴方方の目的は一体なんなんですの〜〜っ!!?」


私達、確か深夜の学園で調査をしていたはずですのに、何故か今 知らない人たちに追われていますの!

あぁ、もう!お仲間とはまたはぐれてしまいますし、オリーブ様も見当たりませんし…踏んだり蹴ったりですわ!

それにしても、この状況は何とかなりませんの!?

私、そろそろ疲れてきてしまいましたわ!!

このまま無様に捕まる、なんて事だけは避けたいですの!

…いや、そうなったら"彼"を囮にするのも悪くありませんわね?

なんて、冗談ですわ。

流石の私もそこまで傍若無人ではありません、って…いや、こんな冗談を言っている場合ではありませんわね!?


「誰か助けて下さいまし〜〜!!!」


しかし、こう叫んだ所で誰もこの状況を打破してくれる訳でもなければタブリス様以外の誰かが助けて下さる訳でもありません。

あぁ、つくづく困りましたわ!

しかし、私達フューネラルブーケのサポート役であるタブリス様はこのような状況下の中、とある方法を閃いたようで 走りながら私の手を掴んできました。


「ノアちゃん、あの教室に逃げ込もう!」


…イエス、ともノー、とも言う暇は今の私にはありません。

とりあえず、この案に縋るしか策はありませんわ!


「わ、分かりました!」


私達は無我夢中になりながら、近くの教室に逃げ込みました。

ここにしばらく隠れていれば、きっと大丈夫なはずですが…。


「あれー?ひめー?何してるのー?」


え!?まさかの先客様ですの!?

もう、誰だか御存知ありませんが私達が助かるにはこの先客様をぶっ飛ばすしか…あら?ひめ?

確か、私をそのような名前で呼んで下さるのはあの人しかいません。

もしかしても、もしかしなくても。


「オリーブ様!」


そう、私の"最高に可愛いお人形さん"である彼がそこにはいたのです。

いつもと変わらぬ笑みを浮かべて。


「もう!どこに行っていたんですの!私、心配したんですのよ!…え、心配?」


今、確かに私は"心配"という言葉を口にしました。

彼に向かって、"最高に可愛いお人形さん"である彼に向かってです。

咄嗟の出来事に私自身が困惑していると、オリーブ様は私の額にそっと優しくキスを、して…?!


「え、え?」


「へへー、心配してくれてたんだー。ありがとーねー。」


「あ、あ、あ……。」


…な、何と言う事でしょう!

私、き、き、キス!キスをされてしまいましたわ!

お、お顔が!お顔が徐々に赤くなるのを感じます!

こんな姿、彼に見せられませんわ!どうしましょう!

えっと、えっと、こういう時は…そう…!


「ふ、ふん!ただ、その、わ、私の"最高に可愛いお人形さん"が誰かに汚されたら大変ですから心配しただけですからね!その、あんまり勘違いなさらないように!」


「たはー、言われちゃったー。」


あー、違います!こんな事を言いたかったのではありません!!

で、でもまぁ…仕方ないではありませんか。

あ、あんな事されたら正気になんてなれませんわ。

…いけない、私ったら!本題に入るのを忘れていましたわ!

早く彼からお話を聞かないといけませんわね、…コホン。


「ところで、オリーブ様はここで何をされていたんですの?」


「んー?よく周りを見てみなよー、ほらほらー。」


「周り?」


特に変わった所はありませんが…あら?黒板に何か書いてありますわね?

えっと…。


『Welcome to Potluck Night!!』


「ぽ、ポットラック…ナイト?」


な、なんですのこれは…?

それに、よく見たら机にはサンドイッチやケーキ、お菓子やクラッカーなどいろいろな物が並んでいるではありませんか!

誰かの忘れ物?ではないでしょうけど…どういうことでしょうか?


「あぁ、そういう事…。」


「な、なんですの!どういう事ですの!」


「つまり、こういう事だよ。」


タブリス様は、私やオリーブ様にも分かるように解説して下さいましたが…正直呆れて物も言えませんでした。


「じゃあ、今回の事件は"夜間で限られた学生だけでひっそりとポットラックパーティーをしていて、学園内に限られた学生以外や先生たちが入ってきたら仕掛けたカメラを頼りに追い返していたら、いつの間にかこんな大事になってしまった"って言うオチですの?七不思議は全然関係ないではありませんか!」


もう、あんなに怖い思いをしたのに!

こんなどんでん返しありですの!?


「そうなるね、まぁこんな事だろうと思っていたけどね。幽霊なんて現実的に考えている訳ないし。…パーティーに招かれざる客は全員、今頃僕らのお仲間を追い返そうと奔走しているんだろうね。この教室は、さしずめパーティー会場と言ったところかな。まぁ、あくまで僕の推測だけどね。」


…はぁ、何だか一気に疲れてしまいましたわ。

と、同時に少し怒りも湧いてきてしまいました。

だって、私をこんな目に合わせておいてのうのうと過ごしておられるなんて腹立たしいではありませんか!

…こうなったら!


「も、もう!こうなったらヤケ!ヤケですわ!オリーブ様、タブリス様!お相手して下さいまし!」


「はぁーい。」


「ちょっと、あんまり暴れないでくれよ…?」


…それからは、あっという間でした。

オリーブ様やタブリス様と協力して学園中を走り回り、再度お仲間と合流しつつおそらくパーティーに参加しているであろう生徒を全員捕まえた翌朝に先生方に突き出してやりました。

後日、該当する生徒達は停学処分となったそうです。

停学処分になっただけで、寧ろありがたい方ですわね。

全く、とんだ茶番でしたわ!

そして、大統領様から頼まれた依頼を全てクリアした私達は晴れてリヴーへの許可証を発行して頂きました。

これでようやく、スフマート様に会えますわね。

さぁ、この旅もいよいよ終盤です。私、張り切って参りますわ!

…あの件があった事を、藍様に話した所とても驚かれていましたが…これはまた別のお話ですわ。

そして、もう1つ別のお話があります。

学園長室の小型カメラ、音楽室の小型スピーカー、美術室の絵の具のばら撒きや逃走者、黒板の文字、保健室で私の足を掴んできた事、理科室の骨格標本の裏に潜んでいた事、そして囲まれた事、私は見ておりませんが家庭科室にある冷蔵庫の食材のつまみ食いは認めましたが"私を殴った黒いコートの人物"については"そんな事はしていない"と否定してきたのです。

…では、あの人物は一体誰だったのかしら?…もしかして、本当に…?



「……う"ぅ"…ぁ"…。」


「メヌ、大丈夫か?さっきからずっと顔が青白いぞ?」


「だ…大丈夫…気にしないで…。ただの寝不足だから…。」


「大丈夫じゃないだろう?さっきからそうやってずっと大丈夫、大丈夫と言っているがフラフラじゃないか。少し横になった方がいい。」


「ほ、本当に…!大丈夫、だから…。」


「メヌ…。」


「…ニュロちゃん、メヌ…お茶飲みたい。その間にちょっと横になるから、それで良い?」


「…あぁ、分かった。」


「…ありがと。」


「ん。」



「メヌ、ハーブティーで良かったか?」


「……。」


「メヌ?」


「…あー…?ニュロ、ちゃん?ありがとう、丁度ハーブティーを飲みたい気分だったんだ。」


「え?」


「…ニュロちゃん?どうしたの?」


「あ、いや…何でもない。…ちょっとキッチンに忘れ物をしたから取ってくる。」


「分かった、気をつけてね。」


「ん。」


「…おかしい。ついさっきまで今にも倒れそうだったのに、すっかり元気になっている。それに、話し方が弱々しくて辿々しかったのに…流暢になっているどころか落ち着いた話し方になって。"メヌがメヌじゃない"みたいなんだが、私が目を離した隙に何が起こったんだ…?」


「…それに、メヌの瞳の色って…"あんな色だったか"?」


「…連絡しないと、ダメな気がする。」



「…やっぱり、今度は緑薔薇と黄薔薇のミニキャンバスが落ちている。しかも薔薇の種類、花弁の枚数、形…どれも"あの2人"の物と一致する。うーん、どういう事なんだ?」


「ジャック?さっきからどうしたんです?♡こんなにいっぱい道端に落ちているミニキャンバスを拾って、何か気になる事でもございました?♡」


「…兄さん、このミニキャンバスに描かれている薔薇…もしかしたら"あの子達そのもの"かもしれない。」


「…はぁ。と、言いますと?」


「リクオルが言っていただろう?"ダーズンローズは現実で予期せぬアクシデントに巻き込まれた"とか何とか…。これがその"予期せぬアクシデント"じゃない?ほら、ちょうど拾ったミニキャンバスは全部で"12枚"あるし何なら"薔薇の色や花弁の枚数、形、どれも僕の記憶にある物と一致する"んだ。…偶然にしては出来すぎているよね?」


「…つまり、お前は"あいつらがこのミニキャンバスの中に閉じ込められている"と仰るのですね?それが真実だとしたら、本当に傑作ですね〜♡どう過ごしていたら"全員キャンバスの中に閉じ込める"事が出来るんでしょう♡まぁ、油断したとか不意を付かれたとかそういう理由だと思いますがね♡」


「だと思うよ。ただ、肉体はここにあるとしてどうしてあの子達の精神や意識だけが、あの夢に干渉出来たのかはまだ分からないんだよね。まぁ、それも多分だけど追々分かると思うけどさ。」


「なるほど。…ところで、どうしましょう?このキャンバスたちは♡ずっとこのままにしておきます?♡せっかくですから、お前の部屋に飾ってみてはいかがでしょうか?♪」


「僕もそうしたいのは山々なんだけど、この子達から話を聞かないといけないんだよね。残念な事に。ほら、この子達をミニキャンバスに閉じ込めた"犯人"をさ。きっと、その"犯人"はフレゥール大陸の"夫婦失踪事件"とも関連性がありそうだし。」


「あらぁ、残念です♡では、またの機会にしましょうか♡」


「そうだね。うーん、とりあえずこの黄薔薇のキャンバスを何とかしてみようか。えーっと…これは多分"黒魔導による呪い"だね。昔の僕なら黒魔導関連の魔導は使えなかったから挫折していたけど、今は違う。黒魔導を完全に解く魔導が使える。…よし、兄さん。」


「はい?何かご用ですか?♡」


「ちょっとミニキャンバスを持っていて貰えないかな?おっと、途中で離しちゃダメだからね。」


「承知致しました♡これで宜しいでしょうか?♡」


「ありがとう。…さて、成功するかな…精神と…魔力を…ミニキャンバスに…集中させて…絵画の中から…引っ張り出すように…ゆっくり…ゆっくりと…。」


「……。」


「…ん、手応えが…よし、このまま…そっと…でも一気に…!!」


「ぷはぁっ!!?」


「…よーし、成功した…ふぅ、これをあと11回か…この僕でも流石に骨が折れそうだな。…やぁ、久しぶりだね。"黄薔薇と真実のメイド ハニーベル君"。」


「…うぅ、あれ?ここは…?お父様…?それに、オロニ様も…!」


「ご機嫌麗しゅう、黄薔薇様♡お元気そう…ではありませんね♡失礼しました♡」


「お、お久しぶりです!ご無沙汰していますのです!…何だか身体が痛いし、全身が黄色の絵の具でベトベトしているし、ちょっと元気とは程遠いかもしれないです…。」


「まぁ無理もないね。今の今まで"ミニキャンバスの中にずっと閉じ込められていた"からね。」


「ミニキャンバス…はっ…お父様!私、エムロード様と一緒にお出かけしていたら突然、誰かが話しかけてきて、そこから記憶がないんです…もしかして…。」


「その画家ってさ、何か外見的特徴はなかったかい?髪の色でも性別でも服装でも、何でも良いよ。」


「えぇっと…確か"白くて長い髪"でした。…すいません、そこしか覚えていないのです。」


「そっか、ありがとう。疲れただろうから、先に帰って休んでおくといい。その後については、また連絡するからさ。」


「ありがとうございます、ではお先に失礼しますです…!」


「…さて、兄さん。あと"11回"だ。頑張っておくれ。」


「了解です♡…ただ、あまり無茶をしてはいけませんからね?辛かったら休んでくださいな♡」


「はは、了解。」



「ふぅ、とりあえず全員あの中から出して、その後閉じ込められる前後の話を聞いてみたけど…。」


『えっとね!"高校生くらいの男の子"だったよ!睫毛も長いし髪がくるくるしてるから最初は女の子かと思ったんだけどー、声で男の子って分かったよ!』


『"画家"と名乗っていたな、どことなく胡散臭い雰囲気を醸し出していたが…まぁ、貴様ほどではないな。』


『そうですね…全体的に"赤紫"が特徴的でした。』


「…もう、完全に"アレ"だよね。」


「奇遇ですね、わたくしも同じ意見です♡ここまで証拠や証言が出揃っていて、実は違う人物が犯人でした!というどんでん返しは流石にないと思いたいですが♡」


「…あり得るから困るよね、本当。」


「…それにしても、何故あの人間は黒魔導が使えるのでしょう?まぁ、どうでもいい情報かもしれませんが♡」


「…それ、僕も気になっていたんだ。20年前の事件の犯人、"サラール・デスグラシア"は"祖先が黒魔導の素質があった人物だったから、子孫である彼も素質があった"からなんだけど…フィリサティ一族の家系図を見るに"黒魔導の素質があった人物"は誰一人としていないんだよ。突然変異にしても、おかしいだろう?」


「うーん、正直過去の出来事はどうでもいいですが…こればかりは謎ですねぇ♡」


「…あ、そうだ。」


「?」


「"アレ"を呼ぼう。"アレ"なら何か知っているかもしれない。」


「呼ぶ?アレ?…まさか、お前…!」


「そう、"死霊術"だよ。死霊術を使って"リクオルを呼び出す"。」


「…お前、黒魔導の使いすぎで少しおかしくなりましたか?お前はアイツの事が嫌いなのでしょう?それにわたくし、アイツと顔も合わせたくないのですが…どうして呼び出すのですか?他の策を考えましょうよ?」


「…仕方ないよ、本当は"顔を合わせるのも苦痛"なんだけど事態が事態だ。腹を括ろう、それに死霊術だから一時的に現世に呼び寄せるだけで術を解いたらあの世に速攻で帰ってもらえるからさ、ね?兄さん?」


「……。お前がそう言うなら、わたくしはもう何も言いません。好きになさいな。ただし!死霊術が終わったら、罰としてお兄ちゃんから甘やかしの刑を受けてもらいますからね!リクオルにうつけを抜かした刑です!」


「はは!それは光栄だよ、兄さん…。じゃあ、手早く始めようか。」


「はい、分かりました♡」


「……香薔薇の大魔法使い…リクオル=オドーラートゥス…☓☓☓☓年死亡…ダマスクローズの香水…ピンク…エセ神父みたいな服……。」


「……。」


「……。」


「……?」


「あら?失敗してしまいましたか?」


「いや、違う。確かに成功したはずなんだけど…あれ…?」


「まぁまぁ、そういう日もありますから。あまり落ち込まずに、ね?」


「うん。…ん?ニュロから連絡だ、珍しいね。…はい、もしもし?」


『…頼む、今すぐこっちに戻ってきてくれ。用件はお前らが着いてから話すから、一刻も早く。…頼む。』


「はぁ?」


『…メヌの様子がおかしくなった。』


「あの人間君はいつでもおかしいと思うんだけど?」


『違う、雰囲気もおかしいし口調もおかしい、それに目の色もおかしい。とにかく、おかしいんだよ。』


「……。」


『とにかく早く来てくれ、頼むから…。』


「…分かったよ、すぐ行く。…ふぅ。」


「どうかしました?」


「兄さん、すぐに帰るよ。」


「あら?お前との2人旅もここまでですか、ちょっと寂しいですが…まぁ仕方ありませんね♡また今度、お付き合いして下さいまし♡」


「ありがとう。じゃ、行こうか。」


「はーい♡」


聖アンドレエヴ学園ナナフシギ事件 終


Chapter2 Chapter4