別れのフューネラルブーケ達

いつかまた、この世界のどこかでお会いしましょう。

半年の時間を経て、ようやく夫婦を連れ戻せし事件解決に導いたフューネラルブーケ達。

ようやく家族と再会できたメヌエットはとても幸せそうに笑っている。

そして、娘と再会できた夫婦は勿論 半ばサラールに操られていたスフマートも家族の時間を幸せそうに噛み締めている。

しかし、そんな家族団欒を眺めてばかりもいられない。何故なら…


旅が終わる、それは自分達があの世に帰るか元いた世界に帰るか…

自分たちがこれからどうするかを考えなければならない。


悲しくないと言えば嘘になるが、夫婦が見つかった今 ここにいる理由はないのだ。


だけどまだ時間がある。

残された時間は…そう、およそ2週間。

その間によく考えてみよう、自分はどうするべきかを。


視点…オリーブタイム


あーあ、ついにこの日が来ちゃったなー。

この日って?またまたー、皆がお別れする日だよーん。

ていうかさ、皆、準備するのが早いよねー。

ねーちゃんはディーさんと一緒に出て行っちゃったしー、レオも魚ちゃんと一緒に出て行っちゃってー、ひめ以外はみーんな出て行っちゃったー。

俺?俺はねー、どうするか迷ってるー。

このまま、フラフラしようかなー、どうしようかなー。

ひめはどうするのかなー、聞いてみようかなー?聞いちゃおー。


「ひめー、ひめはこの後どーするのー?」


「…ふっふっふっ!よくぞ聞いてくれましたわ!」


なんか、すっごい意気込んでるねー、なんだろー?


「…あ、でもまだ迷い中ですので確定ではないんですけれども…私、故郷のラトビアの様な美しくて素敵な国を巡る旅に出ようと思いますの!それか、私の事を知らない土地でひっそり暮らしますの。どう、素敵でしょう?」


「へ〜〜。」


よく分かんないけどすごいのは分かったよー。

ひめらしくて良いよねー、流石俺の彼女ー。


「あ、あの…貴方は、どうなさるおつもりです?」


「えー?」


わー、大変だー。

まだ迷ってるだなんて、言えないよー。

たはー、困ったなー。


「あ、あの!もし行く宛がなかったり、この後の予定がなければ…その…お、"オリーブ"!…あの…。」


あれー、何かだんだん顔が赤くなってなーい?

てか、今、俺の事オリーブって言ってなかった?

あれあれー、この流れってさー?


「わ、わ、わ、わ、私と…!!」


「はいはい、すとっぷすとっぷー。」


「え?」


…ここから先は俺たちの時間だからどうなったかは皆には見せてあげなーい、教えてあげなーい。秘密ー。

え?ケチ臭い?ひどーい、泣いちゃう、えーん。

…じゃあ、ねーちゃんと、レオと、皆にまた会えた日にでも教えてあげる。

それまでは、秘密って事で良い。良いよね?はい、けってーい。

…じゃあ、そんな訳だから。じゃーね、皆、ばいばーい。



「ん〜!この旅ももう終わりかぁ。長かったような、短かったような…でもいい経験になったわ。」


「ふふ、そうだね。…中々、楽しかったよ。」


「やんな!…なぁ、ディバ。うちな、この旅が終わったらアンタと…。」


「…実は、私も…あれ?オリー、君もかい?」


「え?まさか…アンタもウチと"同じ"考えなんか?」


「…驚いた。そう、みたいだね…。」


「…なーんや。何も心配あらへんかったわ。流石、うちの女神様やな。こんな所まで"一緒"なんてなぁ。」


「それはこちらの台詞だ、本当に、私達は…。」


「…なぁ、ディバ。これから2人で何しよか?ウチ、アンタとならどこまでも一緒にいける気がしてん。」


「ふふ、私も。そうだなぁ…。」



「…行ってしまったようだね。」


「…驚いたよ。あんな事があったと言うのに、俺はまた誰かに恋をする事が出来たんだから。」


「…ディヴァインさん、俺は君の事が本当に好きだった。」


「…でも、だからこそ。…俺は君の幸せを願って身を引くよ。」


「……………。」


「…今まで本当にありがとう、ディヴァインさん。」


「…これからの君に、いや…"君達"が幸せでありますように。」



「…ん、今日も酒が美味い。このつまみも中々だね、おかわりしようかな。」


「…なぁ、ルジー。俺達、これからどうしようか?」


「何、急に改まって。」


「…もう旅も終わった、罪滅ぼしも済んだ。だからどうした?俺達のこれからは何も決まっていないじゃないか。他の仲間は皆、自分が進むべき道を歩いてるのに俺達と来たら…。」


「…あー、そう言えばそうだったね。…どうしよう、か。」


「イギリスに帰るのも良いが、まだやるべき事もある気がして中々踏み出せない。しかし、早く帰って母さんに会うべきか?でも、俺は、俺は…どうすれば…!」


「考えるのは良くないよ。…そうだね、夜が更けるまで飲み明かせば何とかなるんじゃない?多分ね。」


「それもそうだな、話を逸らしてしまってすまないな。じゃあ、改めて…。」


「…はは、乾杯。」



「それでは、私はこれで。リアムさん、今までありがとうございました。」


「ちょっと、そんな大荷物抱えてどこに行く気?」


「やっほ〜。ってあれ〜?まさかの最後の最後で喧嘩別れなんてアリ?はは、また何か君がやらかしたのかな?ねぇ、リアム?」


「よ、代葩兄様!?ご、誤解です!!…いや、だって…もう私の気持ちは伝えたはずですよ…?私は…。」


「…はぁ、君はこの半年でリアムの何を見てきたんだい?リアムが君を逃がすなんて事、すると思う?」


「そ、それは…その…えーっと…。」


「…逃さないって言ったよね?俺?何度同じ事言わせるの?」


「ひっ…か、勘弁して下さい……っっ!!無理なんですってぇ〜〜!!」


「あ、逃げた。」


「はは、逃がすものか。…あ。」


「…リアム?」


「……☓☓☓☓☓、☓☓☓☓。」


「……!」


「…やっと、言えた。さて、藍を追い掛けないと。…待て、藍!」


「…さて、戻ってくるまで俺は何をしようかな。何せ彼には話があるからね。…今から楽しみだ。」



「さてと、そろそろ行くとするか。」


「…どこに行くんですか?」


「おや、ミロ。まだいたんだね?…おっと、失礼。私かい?もうここに用はないからね、ここを出て職を探す予定だよ。」


「…そうですか。」


「まぁ、私は見た目が良くないからな。護衛とか、また傭兵をするのも悪くないかな…とは思っているよ。」


「……。」


「何だい?寂しいのかい?はは、可愛い所があるじゃないか。」


「…そうじゃなくて…。」


「ん?」


「…逃げないで下さいよ。」


「え?」


「…貴方、"ドロシー"でしょう?アルトパートの、ドロシー。」


「まさか、君…!」


「…僕たち、話し合わないと仲直り出来ないですよ?」


「……。」


「時間はいくらでもあるんです、墓場まで持っていくなんて許しませんからね。」


「…はは、私の完敗だ。いいよ、いくらでも君に付き合おうじゃないか。」



「…どうしても、行っちゃうの?」


「言ったろ、俺にはやる事があるって。男に二言はねェよ。」


「だったら、僕も…。」


「ダメだっつったろォ?…俺はオメーに汚い世界を見せたくない。それにオメーには俺と違って待ってる奴が沢山いんだろォよォ。ほれ、俺の見送りなんざ良いからはよ行っちまえよォ。」


「だって、だって…せっかく両想いになれたのに離れちゃうなんてさぁ…あんまりじゃん…!」


「泣くなっての、ガキかオメーは。…ガキだったわ、ウケる。って冗談は置いといて…やる事終わったら必ず迎えにいくからサ、心配すんなって。」


「……う"〜…分かった…もう泣かない…!…待ってるからね!約束破ったらぶっ殺してやるからな!」


「…おぅ、約束。…あ、やべ!そろそろ搭乗時間じゃん!?行かねェと…おっと、忘れ物…っと。ん。」


「……!?」


「…んふ、またネ。」


「……ぅ"……。」


「おやおや、酷い顔だね露里。ボクらが慰めてあげようね。」


「…う"ぅ"〜〜…」


「…露里。沢山、沢山泣いたら…私達にも聞かせてくれませんか?私達が知らない貴方のお話を。」


「……す"る"…。」



「…風が気持ち良いですね。」


「こんな気持ちの良い日は、読書をしましょうか?それともお菓子を作りましょうか?迷ってしまいます。」


「……………………。」


「先生、私、また先生に会えて嬉しかったです。」


「先生は私の事、覚えていてくれましたか?…何て、もうここにはいないのに聞けるわけないですね。」


「先生は絶対、絶対長生きして下さい。"私の分まで"。」


「…幸せになって下さいね、"先生"。」



「…もしもし、自分です。ヘイリーです。…はい、はい…実は半年ほど前に意識が戻って、心配かけてすみません。え?声変わり?あー…これについては会った時に…はい、はい…うーん、とりあえず年内にはそちらに伺えるかと。はい、はい…ありがとうございます…失礼します。」


「珍しいね、君が誰かに電話だなんて。知り合いかい?」


「…父上と母上だ。こっちが済んだ今、自分は故郷に帰って一族の跡継ぎ問題に取り掛からなくてはならないからな。いきなり帰ったら腰抜かすだろうから、前もって話を付けたまでだ。」


「うわ…大変そうだね、大丈夫?」


「…本来の後継者である兄が死んだんだ、他に適任がいない。それに、女なら難しい問題が男なら何も問題なくなるからな。都合がいい。」


「…なるほどね。」


「お前はどうするんだ、もうここに用もないだろう?」


「…あー…そうだね。うん、どうしよう…かなぁ…。」


「…はぁ、やはり自分から言わないと分からないか。」


「え?」


「…自分の所で働く気はないか?…見合う給料も出す、飯も、風呂も、布団も、住む所も、な。」


「……!」


「大方自分に気を使ってるんでしょ、年下だからとか何とかって。そういうのいいって、お前は自分のバディ。そういう気遣いとか今更なんだって…別に無理はしないけど、お前、小さい頃は金で苦労してたっぽいから…これ以上…そう言うのさせたくない、というか…んん…。」


「…い、良いのかい…?」


「…二言はない、親御さんに話つけてこい。それからゆっくりこれからの話をしよう。」


「…分かった、君にいい返事が出来るように頑張るよ。」


「…へへ、期待してる。」



「うん、これで捨てる物は全部かな。…"便利屋を廃業する"だなんて何だか悪い事をしてるみたいだけど…。」


「大丈夫ですよ♡お前のしている事は決して悪い事ではありませんので♪それとも、お前はお兄ちゃんよりお仕事の方が大事ですか…?」


「ご、誤解だよ兄さん…僕は兄さんの方が…。」


「冗談です♡」


「…もう、兄さんたら…。」


「とにかく!20年ぽっち一緒にいただけじゃわたくしは満足しません!それにあの人間に邪魔された分も含めた、ら…?」


「…………兄さん?」


「ジャック?どうしたんです?急に寄り掛かって…あ、もしかして甘えたですか?♡」


「…いや、ようやく本当の意味で兄さんと2人きりで過ごす事が出来るなぁって思うと感慨深くてね…。もう人間君に邪魔される事も、依頼に追われる事も、僕らが離れる事もないんだよね…もう頑張らなくても良いよね、僕。ね、兄さん。」


「…………。」


「…ねぇ、兄さん。」


「はい?」


「…これからはずっと一緒だよ、兄さん。大好き。」


「…勿論ですよ、ジャック♡」



「だから!宿題終わったらって言ってるだろ?!!」


「いーやー!!今遊ぶの!!宿題なんて後でも良いじゃんー!!!」


「この宿題、提出出来なきゃ留年する可能性があるんだって何回言えば分かるんだよ!!後で絶対遊んであげるから!!」


「やだ!!今すぐ遊ぶの!!ねーえー!!」


「こっちこそ無理だって!!!誰か!!!助けて!!!」


「…メヌ、そうやって我儘言って困らせていると、彼はますます君に構う時間がなくなるんだぞ?良いのか?」


「でも、でも〜〜〜…!!」


「いなくなるのを恐れているのか?何回も言っているが、今は"私がいる"から心配しなくて良い。それとも、私じゃ不満か?」


「…分かった、我慢する……。」


「ん、良い子。」


「…あ、ありがとう…ございます…?」


「…良いよ、気にしないで宿題を済ませてきなよ。メヌの面倒は私が見るから。」


「は、はい…。」


「子供扱いしーなーいーでー!!!!」


「…そうは言っても、君は私からしたらまだまだ手のかかる子供だから仕方ないかな…ねぇ、"リクオル"?」


『はは、すまない…お手柔らかに頼むよ、ニュロ。』


「もー!!!ニュロちゃんー!!!」


「はは、ごめん。」



「さて、あーし達もそろそろ元の場所に戻らないとねぇ。」


「そうだな、名残惜しいが…。」


「じゃあ最後に皆さんで写真を撮りませんか?!今度いつまた全員で会えるのか分かりませんし!」


「写真、ですか?」


「断る。」


「まぁまぁ、たまには良いじゃないか!」


「私は賛成なのです!あ、カメラを持ってくるのです!」


『…ふふ。』


「あ、グラティアちゃん笑ったー!」


「…あの、皆さん…写真を撮るんですから集まった方が…。」


「私も遠慮したいです…。」


「だーめ!ほら、行くよ!」



「皆、行っちゃったね。」


「えぇ。…やっぱり、あの子達は旅をしている姿がよく似合うわ。それに、フューネラルブーケと言ったかしら?あの子達、罪を犯したなんて信じられないくらい立派な子達だった。…本当に、素晴らしい子達に助けて貰っちゃった。私達。」


「僕も同意見だよ、ビアンカ。…この恩は返しても返し切れないよ。」


「ね。…ねぇ、アーテル。」


「なんだい?」


「私、貴方に話したい事があって……。」


「?」


「い、いや!やっぱり何でもないわ…!うん、まだ早いもの…。」


「隠し事?はは、僕も嫌われた物だなぁ。」


「ち、ちち、違う!違うの!ただ、今は言えない…ごめんなさい。」


「今は?いつかは言えるって事?」


「…うん。」


「…分かった、待ってる。」


「…ありがとう、ふふ…優しいわね。」


「君には負けるよ。」


「もう、貴方ったら…。」



人間になったダーズンローズ達が行方不明の夫婦を探しに旅をするお話から20年後、志半ばで死んだ罪人が己の贖罪のために夫婦を探す旅をするお話はこれで全てだ。


どうだい?薔薇が好きなとあるご夫婦の人生の一部を見た感想は?

しかし、ご夫婦も大変だよね!まさか2回もこんな事件に巻き込まれるなんてさ、本当についてないったらありゃしない!


って、何だい?そんな悲しい顔をしないでおくれよ。

…大丈夫、物語が終わるだけで物語の外で彼らは、彼女らはこれからも元気にやっていくんだろうから心配する必要はないよ。

皆の幸せを願っていれば良いんじゃないかな。

さて、じゃあそろそろ別れの挨拶といこうか。


…え?このままじゃ納得いかないって?終わってしまうのが寂しいって?

もう少しで良いからご夫婦のその後とかが見たいって?

…はぁ、仕方ないなぁ…じゃあもう少しだけ付き合って貰おうかな。

ほら、おいで。特別に案内してあげようじゃないか。

ご夫婦の、その後の世界を。


別れのフューネラルブーケ達 終?


ある日のどこかの男女

生まれ変わっても、何度でも。

フレゥール大陸全体を揺るがしたあの事件からどれくらいの時間が経ったと思う?

1年?10年?100年?いや、それ以上の途方も無い時間が流れたようだ。

ダーズンローズは、大魔法使い様は、フューネラルブーケは、フューネラルリースは今どこで何をしているのだろうか。

…それは分からない、分かる術はきっと、もうないと思うんだ。

だって 彼らを、彼女らを繋いでいたと言っても過言ではない"薔薇が好きな夫婦"はあの事件の30年後に黒髪の人間君、アーテルが先に病気で、数年後に後を追うように白髪の人間君、ビアンカも衰弱して亡くなってしまったからさ。

でも、きっと大丈夫だろう。よく分からないけどきっと、どこかで元気でやっているだろう。確信はないけどもね。

地球の何処かで彼らが、彼女らが幸せな人生を歩んでいる事を願おう。

…あぁ、そうそう。

関係ない話かもしれないけど、フレゥール大陸には"赤紫が似合う黒髪の女性が、同じく赤紫が似合う絵を描くのが得意な白髪の男性と、赤と白が似合う背の高くて強くて綺麗な女性の2人と一緒に薔薇を育てている"んだって!

その3人が育てる薔薇はとても美しく、その薔薇を見る為だけにフレゥール大陸を訪れる観光客が後を絶たないらしいよ。

ちなみにだけど、同業者で"灰色の髪をした野暮ったそうな女性がいる"みたいだよ!いつもその3人に負けて悔しい思いをしているようだけど"彼女の婚約者である赤茶色の髪をしたちょっとポヤポヤした男性"がいるから頑張れるんだって。

…話が逸れてしまったね、失礼。

それにしても、ここはどこなんだって?

ここはとあるカフェ、オフィス街にあるこのカフェは平日昼間はサラリーマンやOLで賑わっているようだ。

そんなカフェに、どこかで見覚えのある男と女がいる。


「わっ…!?」


おや、テイクアウトした商品を受け取り会社に戻ろうとした"白い髪の男性"が、列に並んでいた"黒い髪の女性"にぶつかり手にしていたカフェオレを彼女のワンピースに零してしまったようだ。


「あ、ごめん!すぐ拭く物を…!」


彼はバッグから急いでハンカチを取り出し、彼女に渡すとそこでハッ、と目が合った。

…あれ、おかしいな?

私達は、僕達は今日初めて会った気がするのに…何だか、すごく懐かしいような、愛しいような、何とも言えない暖かな気持ちが2人の心を満たした。

これって…もしかして…?


…これは、後に結婚する薔薇の好きなある男女の物語。


…さて、僕が案内するのはここまでだ。

…今度こそ、別れの挨拶といこう。

いつかまた、どこかで会えたらその時は宜しく頼むよ。

それじゃあ、元気でね。…そして、ありがとう。


ある日のどこかの男女 終


オリ棒企画"フューネラルブーケの花よ贖え" 完


Chapter5