目覚めのフューネラルブーケ達
視点…レオン=ジョンブリアン
死者とは。
肉体の機能が全て停止し、死んでいる人の事。
罪人とは。
法律的、道徳的な罪を犯した人の事。
…え?そんな事言われなくたって分かっているって?
まぁ、そうだよね。
だって、"死"も"罪"も僕達にとっては身近な事だからさ。
どちらも身近な物だからこそ、生々しい恐怖や何とも言えない気持ちがあるよね。
なんだろう、ほら…
ある日、いきなり車に轢かれて帰らぬ人になってしまったり。
病気でそのままポックリと仏様になったり。
軽い気持ちで物を盗んだら、いつの間にかハマってしまって気が付いたら取り返しがつかなくなったり。
何となくサインした契約書1枚で犯罪者に、何て事もあり得るよね?
…え?そんな事ある訳ないだろうって?…どうしてそう言い切れるんだい?
あー、分かった…君は怖いんだね、怖い気持ちを隠す為に嘘をついている。
死にたくない、生きていたい、罪なんて人並み外れた事するもんか、罪を犯してこそ人間という生き物は味が出る…そう断言できるのか否か。
分からないよね、人生って案外長いかもしれないし短いものかもしれないし!
これから先、自分の身に何が起こるのか怖くて仕方ないんだよね?
うんうん、分かるよその気持ち。何となくだけどね。
でもさ、そんな物に答えを求めたって分かりっこないだろう?
死者が甦る、ましてや甦ったら条件付きで生前の罪が無かったことにされるなんてそんな嘘みたいな話でもない限り、ね。
まぁ、そんな自費出版の内容が薄っぺらい自己啓発本のような話は僕にとってはどうでもいいんだ。
僕が言いたいのは、そう…
"夢叶わず志半ばで死んだ生前罪人だった死者が甦って、生前の罪がなかった事になって人生をやり直せるという餌をあげたら、どう反応するのか?"
これは、そんな罪人兼"元"死者達のお話。
…
「…なぁ、本当にやるのか?」
「うん。だって"あの子達"と"連絡が取れない"んだから仕方ないだろう?」
「まぁ、ないものねだりしても仕方ないですからね♡それにしても…"あいつら"は一体全体何処にいるのでしょうねぇ?♡そんなに遠い所に行ってしまわれたんでしょうか?」
「それは僕にも分からないなぁ、僕はエスパーではないからね。あはは。」
「でも…だからって"コレ"を使う必要はあるのか?」
「あるよ、だって"コレ"は僕達に取っては"かなり使い勝手の良い人間君達"だからね。」
「今は"物を言わぬただのお荷物"ですけどね♡」
「はぁ…まぁ、止めても無駄だろうから私からはもう何も言わんさ。」
「物分りがよくて助かるよ!流石、僕の同期なだけあるね!」
「はいはい、何とでも言ってくれ。」
「じゃ、お喋りはここまでにして…始めるよ。"ニュロ"、"兄さん"、少し僕から離れていて。」
「はーい♪」
「……。」
…
「…馬鹿な…この……私が……死……………………………………………」
胸元を抑えながら、男が俺の目の前でうつ伏せに倒れる。
男は倒れたまま血の海に沈んでいて動かない、もう起き上がる事はないだろう、二度とな。
だって"俺が持っていた拳銃であの男を撃ち殺した"んだ、心臓目掛けてな。
あんなイカレ男のせいで"アイツ"を殺される訳にはいかない、せっかく"長年の悲願が叶う時が来た"のにあの男、よくもまぁ俺達の邪魔しやがって…"アイツ"の"アレ"の為なら俺は何だってやってきた。
"アイツ"の為に生きていたと言っても過言ではなかった。
だから、こうしてまた"アイツの為に背負っても背負い切れない罪を重ねた"と言うのに…。
「……グフッ」
"まさか、俺もあのイカレ男に同じように拳銃で撃ち殺される事になるなんて誰が思う?"
胸元が焼け付くように痛い、視界がチカチカと点滅する、身体を支えきれなくなった俺は仰向けにぶっ倒れる…あー、もう起き上がれねぇなこれ。
パトカーのサイレンの音、ポツポツと降り出した雨の音、騒ぎ出す近隣住民の声…それすらだんだん聞こえなくなっていく。
起き上がる体力もなく虚ろな目でしとどに顔を濡らし続ける濁空をボーッと見上げていると聞き慣れたような声がはっきりと聞こえてきた…"アイツだ"。
俺によく似ている"アイツ"は倒れている俺に駆け寄り、俺の体を起こし大粒の涙を流しながら必死に俺の身体を揺らす。
口を動かそうにも、はくはくと乾いた空気のような音しか発する事が出来ない。
「……………………………!!」
言葉を聞き取ろうにも、聴覚も力尽きたようでイカれちまった。
今の俺にはもう何も聞こえない。
…それにしても瞼が重い、後は何だか寒いし何より…すごい眠たい。
そう、これは…"死"だ。
必死に目を開けようと理性に抗うも無駄のようで、瞼は意思に反してどんどん重く、固く閉じていく。
…あー…俺、死んじまうんだぁ。
まだ、"アイツ"とやりたい事 たくさんあったのに。
それに、"俺の長年の夢が叶ったか、叶わないか"を俺自身が分かる事なく死ぬんだ。
…あーあ、こんな事なら"アレ“をやりながらでも、もっと"アイツ"との時間を無理矢理にでも作ってやりゃあ良かったわ。
表社会に顔を出せなくなるくらいの仕打ちを受けても、地面に這いつくばってでも、泥水を啜ってでも必死に夢の為に生きてきたのにこのザマはマジで笑っちまう。
…本当…カミサマとかいるなら怨むぜ……マジ…人生って…クソゲーだ………………………。
…
……………………………。
「ねぇ…聞こえる?」
……………………………。
「ねぇ…。」
……………………………?
「ねぇってば…。」
………………………ん…?
「ほら、もう起きる時間だよ。」
…………もう、朝だっけ…?
あー、夜遅くまで仕事だったんだからもう少し寝かせろ…んー…。
「ジャックが!!!起きて下さいと!!!!言ってるのが!!!聞こえないんですかね〜〜〜!!!?」
耳元で爆音で流れる拡声器の音で完全に目が覚めた。
さようなら、俺の睡眠時間。
ようこそ、朝 おっはモーニング。
…じゃなくて!!!
「イ"〜〜〜〜ッッッ!!?!!テメェ耳元でギャーギャーうるせぇんだよコラ!!!!!!!つか誰だテメェ!!!?!」
まさか俺が寝ている間に家に泥棒が侵入してきたのか、"アイツ"は…買い出し中か?まぁそこは一安心…はー、朝の、しかも仕事終わりの大事な睡眠時間を奪いやがったこいつらの相手すんのちょーだるい…と思いつつ普段コートに忍ばせている拳銃を取り出そうとするも拳銃は何故か見当たらねぇ。
まずい、まずいとコートを脱いでバサバサと叩いても拳銃どころかゴミや埃の1つも出てこなかった。
…あれ、そもそも俺こんな高そうなコート買ってたんだっけか?
おかしいな、いつもはセール品しか買わねぇのに…酔った勢いで奮発したんだっけかな。
それにしても…何だか身体が熱い、特に背中。
コートを脱いだのに何故か暑くて、背中に違和感を感じで触れたら髪の毛の束、束、束。
髪がいつの間にかとんでもない長さで伸びている、しかも何か毛先が変な色してるし…ヅラかと思って引っ張ってもどうやら地毛のようで残ったのは頭皮の痛みだけ。
…俺は何故こんなに髪が長い?元々軽く結べる程度しかなかったのに何故?
しかも、顔をベタベタ触りゃ何か左目辺りに痣みたいなのがあるし…マジで、なんなんだ?俺に何が起きているんだ?
そもそも俺って…何で生きている?あの時、俺は…??
目の前の出来事に、自分の身体に起きている異変に、そんなおかしな出来事の連続に混乱しているとさっき俺の耳元で拡声器を使ってきやがった…白い男?女?が俺を見てニコニコと笑いながら足をグリグリと踏んづけてくる、おい、やめろ、ブーツが汚れるだろうが。
「ほ〜ら、起きられたではありませんか♡おはようございます♡」
その白い男(だと思いたい)の両隣に、無愛想そうなでかい女が1人と胡散臭そうなでかい男が1人、俺の事をじっと見てくる。
「……。」
「はぁ、寝坊助さんは手を焼いて困ってしまうね!兄さんが起こしてくれたんだから感謝したまえよ。」
…誰も起こしてくれなんて頼んでねぇよ。
つか…さっきまでこの3人組を家に入り込んできた泥棒と思っていたがさっき自分の身体に起きた違和感を踏まえれば俺ってば、あの時死んだじゃねぇか。
拳銃で心臓を、バーンって、な。って事は だ。
「…ここが地獄かァ?あんまり生きていた時と変わんなくネ?つか人って死んだらこんなにイメチェンすんの?マジキモいんですけど…。」
髪を触りながら話していると目の前の3人は目を合わせ、その内の1人の胡散臭い男がカラカラと乾いた笑い声を上げながら俺に話しかけてきた。
「いや、地獄じゃないよ?天国でもないけど。正真正銘、ここはこの世だよ。」
あー、そうですか地獄じゃないんですか。
それはようございまし…た?
「…あ?」
この世?この世って、あの、あの世とこの世のこの世?
…は?は?
「つまり、分かりやすく言うと…現世、現し世、地球…君が"かつて生きていた世界"そのものだよ。」
つまり、俺は…どういう事だ?
「……??」
「回りくどいのは面倒だからさっさと言ってしまうと、君は"2年前に死んだけど、僕の魔導で甦った"のさ。君がかつて生きていたこの世界にね。闇金融業者、レオン=ジョンブリアン君。」
…。
「…は、は…は……はぁぁあああああああっっっ!!!?!!?!」
……夢か?夢なら覚めてくれ、マジで、早急に。
頬を抓ってみるも、抓るほどこれは紛れもない現実だと嫌というほど突き付けてきやがる。
まるで 諦めて今の状況を受け入れろ、とでも言うように。
…はは、これが仮想空間の結末ならこうだろうな。
かくして、俺はアンデッドとして生活をする事になりましたとさ。
めでたし、めでたし…
「じゃねぇヨ!!どういうつもりだコラ!!?俺がテメェらになにしたってんだよォ!!?」
勢い余って胡散臭い男の胸ぐらを掴んじまった、すぐ振り払われたケド。
…何か、後ろですげー圧を感じるんだけど気の所為だと思いたい。うん。
胡散臭い男は、はぁ…とため息をつきながら俺にさらっととんでもねぇ事を話した。
「…何を勘違いしているのかは知らないけど、"甦ったのは何も君だけじゃない"よ?」
「は…?」
慌てて振り返ると、見慣れねぇ奴らがズラリとまぁ…ざっと10数人か?
え、待ってこいつらも俺と一緒に甦ったのか?はぁ…ますます何がしたいんだか分かんねぇ…。
とりあえず、ざっとこいつらの様子でも見てるか、えーっと…。
「おー!アンタ!うちと片目の色、お揃いやんな!何か嬉しいわ!うち、オリヴィア言うねん!オリーでええで!仲良くしてくれな!」
「え、えぇっと…オリー、さん?その…あ、ありがとうございます…?」
何かすげー元気な姉ちゃんと反対のすげー大人しそうな和服?の女と…
「あー!お前の服、すっげー可愛いじゃん!なにこれー!?」
「これですか?ただのフリルシャツですが。」
「ふ、2人共お話はそこまでにしてあの人たちの話を聞きましょうよ?ねぇってば…。」
やんちゃそうな子供と堅物そうな子供と…なんだ、学校の先生みたいなやつと…
「まぁ、ご機嫌よう!貴方達、壊しがいがありそうね!」
「ふふ、どうかな…私はこうみえても頑丈かもしれないよ。」
「僕に危害を加えるのは良いけど、兄様に危害を加えるのは許さないからな。」
どっかのお嬢様っぽい奴と、魔女みてーな女と、穏やかそうな優男…
「ねー、君 今手開いてるー?これ外すの手伝ってよー。」
「え?これか?…なんだこれ、どうなってんだ?」
「ヒヒ…手伝おうか…?」
死刑囚っぽい男…!?と生真面目そうな男とめっちゃ暗そうなおっさん…こんくらいか。
全員、共通点がなさすぎてますます何故このメンバーが甦る事になったか分からなくなってきた…あー、やっぱり夢なら覚めてくれ。
なんて、頭を抱えているとあの胡散臭い男が俺達に話しかけてきた。
「教えてあげよう、君たちの共通点は…"生きる為、夢の為、様々な理由で生きてきたけど志半ばで死んでしまった罪人"だ。」
…なーんだ!
へー、じゃあここにいる奴らは全員俺と同じ…同じ!!?!?
「じょ、冗談じゃねぇヨ!!こんな奴らと一緒にいられるか!!!」
ここにいたら間違いなくバッチバチの戦争が起きるに決まってる!!!
早くこの場から逃げようとしたら、無愛想そうなでかい女が俺の手を引っ張りやがる。
やめろ、俺はまだ死にたくない…あ、死んでたわ。
「いや、こんな奴らと言っているが…君もそのこんな奴らと境遇は同じだろう。」
…妙に説得力があるので、逃げるのは止めよう。
「…確かに。」
はぁ…まじ何なんだよ…。
1時間も経過してねぇはずなのに色々とありすぎて徹夜明け並に疲れちまった、俺はどっかり地面に座り込む。
「さて、無駄話も何だから手短に話を済ませよう。君達を甦らせたのには理由があるんだ。それは…。」
あー、はいはい。
どうせどっかのお国の政府様が絡んでいるとか、莫大なお金と引き換えに実験動物に…とかそんなんだろ?
なんて考えていると、ぜーんぜん予想と違う解答が返ってきた。
「"行方不明になったあるご夫婦を探してきてほしい"んだ、何処にいるかなんて勿論分からないから、君達に旅をしてもらう形でね。」
…あー、待ってくれ 待ってくれ。
俺たちは、たかが人探しの為に甦らせられたのか?
おいおい、そりゃねぇぜ んなもん警察に任せとけよ。
「この依頼を見事達成出来たら、"生前の罪はなかった事にするし、もう1度君達がこの世界で生きれるチャンスをあげよう"。」
だから、そんなの警察に任せろって…え?
「今、なんつった…?やる事やれば生前の罪が帳消し?またこの生きていけるって…?」
ここにいる全員が、胡散臭い男に視線を向ける。
「そうだよ!だって僕達、大魔法使い様だから!基本的な事は何でも出来るのさ。君達にチャンスをあげようと思ってね。」
そういうなり、3人組はそこら辺にある物を浮かせたり、空を飛んでみたり、何もない空間からお菓子を出したり、手から火や水を出したり、乗り物を作り出したり…
…魔法使いって存在するんだ、アニメとかゲームとかの世界じゃないんだ。
マジシャンにはこんな芸当出来ないもんな。…はぁ、こんなもん見せられちゃ信じるしかねぇんだろうな。
周りの奴らも、どうやらこの大魔法使い?とやらが言っているのが真実だと確信したようだし。
「…本当に信じて良いんだな?」
「あぁ、良いよ。君たちの腕を見込んでの事だ、頼むよ。」
胡散臭い男は相変わらずニコニコと笑っている。
…もし、"アイツ"に会えたら…夢の結末を見れるし、何より俺は…。
やるしかない、こんなチャンス2度もない、やってやる。
第二の人生の為にな、ガハハ!
「良いぜ、やってやんよォ。」
要件を了承してやると、胡散臭い男は良かった!と言うように俺の肩をバシバシ叩く。いてぇいてぇ。
「あー、良かった!助かるよ〜!流石菊人間君達だね!いや、呼びにくいな…あの名前を借りよう。今日から君達は弔いの花束、"フューネラルブーケ"だ。」
「フューネラル、ブーケ…」
アイドルかよ、まぁいいや。
「あぁ、申し遅れたね。僕は枯薔薇の大魔法使い ジャクリーヌ・スキュア=オーバラライデンだ。長いからジャックとでも呼んでおくれ。それと…。」
「…ニュロ、血薔薇の大魔法使い。」
「わたくしは、薔薇糖の大魔法使い オロニ=グリュキュと申します♡お名前を間違えたらぶっ殺すのでそのつもりで♡」
ふーん、と3人組の自己紹介を聞いているとニュロと名乗った女の後ろから小さな女が出てきた。
…小学生くらいか?こっちをじっと見つめてくる。
「ほら、挨拶したまえよ。」
小さな女はもじもじとしながら、挨拶してきた。
「…えっとね、えっとね…メヌ…メヌは、メヌエット=フィリサティ!小学6年生!えっとね!お兄ちゃんとお姉ちゃんのお手伝いとして呼ばれたの!だから、えっと!宜しくお願いします!」
「この人間君は、探してきてほしいご夫婦の娘なんだ。事件当時、ご夫婦の住んでいた部屋に倒れていたらしくて。命に別状はなかったんだけどどうやら記憶喪失になったみたいでね、たまに手伝いに来るから仲良くしておくれよ。」
ふーん、娘ねぇ…こんな姿、夫婦とやらが見てたら相当しそうだな。
まぁ俺には関係ねーけど。
「さぁ、フューネラルブーケ達よ!人探しの旅の準備をしよう!忙しくなるよ〜!」
「へいへーい…」
こうして、俺達は人探しの旅という当てのない旅をすることになったとさ。
はぁ…俺達、ちゃんと依頼達成出来るかなぁ…。
なんてくよくよしてもしょうがないから、とりあえず頑張りまーす。
目覚めのフューネラルブーケ達 終